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「明治の表象空間」(松浦 寿輝) [ノンフィクション]

昨年末の新聞書評年間ベストなどで複数の人たちから挙げられていたので、読んでみようと思い図書館で借りて読んだ。
 借り出した時にその厚さに驚いた。1段組ではあるが、細かな字で700頁もある(ちなみに値段は5400円・税込)! 普通の小説ならまだしも、内容はかなり硬めの難解そうな本なので、これは覚悟して取り組まねば、と気を引き締めて読み始めたものの、読了まで2週間近くかかってしまった。その割には面白かった(だったらもっと早く読めそうなものだが)。

明治の表象空間

明治の表象空間

  • 作者: 松浦 寿輝
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/05/30
  • メディア: 単行本


 表象とは、「言説」とほぼ同義。なので、テキストに限定した文脈で語られ、美術や音楽は(皆無ではないが)殆ど言及されない。
 明治初期から中期(30年くらいまで)にかけての、日本の政治社会文化の中で展開した「開化」と「啓蒙」とシステム化の進展。その右と左の動きを、様々な膨大なテキスト文献への縦横無尽の言及引用から検証して克明に辿っている。50代の10年という全てを注ぎ込んだ労作。

 「国体」という曖昧にして空疎な概念の検討から始まり、内務省・警察、戸籍制度、刑法、漢文体と言文一致体、福沢諭吉の啓蒙とプラグマティズム、中江兆民のラディカルさ、小石川植物園の博物誌・科学の展開、天皇制・教育勅語の成立過程、国語辞書「言海」の規範性、社会進化論の瀰漫、システム論、透谷・一葉・露伴の反時代的エクリチュール、福地桜痴の戦争報道と「情報」の誕生、「冷たい時間」と「熱い時間」、国家へ穿つ穴、……目も眩むばかりの奔流だ。あの明治初期の短い期間に、なんという沸騰するような動きが渦巻いていたことか!と認識を新たにさせられる。

 しかも、これは単に終わった遠い昔の話ではなく、そこで構築された構造と日本人の心性は現在に至るまで桎梏として強固に残存し続け、この社会の趨勢を今なお支配しており、「情報化」の進展によってますますその病理を深めている、という認識が語られる。
 「この本の扱う対象外なので、それを詳しく検討展開する余裕は無い」というような言い方が随所でなされているのだ。ここに、より広いアクチュアルな問題意識を感じさせられる。
 
 とは言え、著者の語り口にはいささか「独断と偏見」的なもの、主観的・印象論的記述っぽさが散見された。著者の該博な知識、夥しい文献への調査研究ぶりは大変なものだし、そこに大きな構造やダイナミズムを見出す一種の知的冒険には興奮したのは事実だが、論理展開に若干の強引さ・飛躍を感じたところがある。もっともその大半は私にも共感できるものが多かったのだけれど。

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