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「乳房の文化論」(乳房文化研究会 編) [サイエンス]

 この本のことを知った瞬間、「これは読みたい!読まずに死ねるか!読まずば二度死ね!」と興奮した。白状すると、実は私は乳房というものに目がないというか、とても興味関心があり憎からず思っているという、今更隠し立てしてもしょうがない嗜好の持ち主なのである。いやこれはヒトとして当たり前の性向であって、誰だって同じじゃないだろうか? この年にもなれば恥ずかしいという気はもう起こらない。

乳房の文化論

乳房の文化論

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 淡交社
  • 発売日: 2014/11/19
  • メディア: 単行本


 世情騒然たる中で、こんな本を読んでレビューするのは気が引けるのだが、早速図書館に予約して読んだので、以下にそのあらましを書こう。
 「乳房文化研究会」という25年の歴史を持つ、「真面目な」団体の編纂による、過去発表された論文から選りすぐって集成された本である。控えおろう!

1「乳房の社会学」北山晴一(乳房文化研究会常任運営委員)
 乳房というものを社会学的観点から捉え直す。乳房というものがどのように注目されあるいは扱われてきたかの変化が描かれる。コルセットの歴史など。
 社会学的観点という割には、服装の歴史を乳房の扱い、女性の身体に関するファッションの変遷と言う視点のみから分析しているだけなので、視野は狭い印象。社会学と言うなら、もっと広い論点が欲しかった。
 身体性という問題は文化の文明の歴史と密接に関わる。これは同感だが、それにしては考察が浅いような…。
 乳房の三つの意味機能、乳汁分泌、ゆたかさ、性的よろこび。とこれまた当たり前すぎの展開。
 性器の代替としての乳房。そんなことは自明では?

2「感じる乳房─誰のものか?」上野千鶴子
 いまいち面白くなかった。論点が絞れていない、随筆といった印象。

3「中国乳房文化論ノート」武田雅哉
4「チチとホト─乳房の日本文化史」鎌田東二
5「古墳文化と乳房」塚田良道
6「古代インド美術の乳房表現」肥塚隆
7「乳房に恵まれる―ヨーロッパにおける授乳するマリア像」山口惠里子
8「美術のなかの裸体美─西洋から日本へ」高階絵里加


 この3〜8章は殆ど美術史的な紹介で、あまり面白くなかった(図版は多いし、眼福的な箇所はあったが)。なので省略。

9「少年マンガにおける美少女の身体」表智之(1969生、北九州漫画ミュージアム専門研究員)
 戦後少年マンガの発展史を振り返りつつ、徐々にプレゼンスを増してきた〈美少女に不釣り合いに大きい乳房〉出現の過程を、豊富な事例の中にヒロインの役割・性格付けのケーススタディを細かくたどり、マンガ文化と日本社会の心性の変化との関わりの考察まで至る。これは親しみのある漫画の話がいっぱい出てきて興味深かったし、共感が持てた。

10「容姿の進化論」蔵琢也(1963生、進化心理学)
 様々な動物の性的ディスプレイとしての色や形の紹介。「超正常刺激」を相手に与えるという機能。赤ん坊が丸っこく可愛く見える「ベビーシェーマ」現象。ヒトの乳房は乳汁分泌の必要以上に大きいこと、など。

11「揺れ動くおっぱい―ファッションと女性性への視線」深井晃子(服飾研究)
 骨がなく成型しやすい部位として、ファッション上大きくしたり小さくされたりと多様に扱われてきた歴史。やはりコルセット(くびれたウェスト、豊かな乳房)の話のウェイトは大きい。それが廃れてブラジャー登場。平たい乳と豊乳の流行の繰り返し行ったり来たり。可塑性が高いがゆえの、社会の女性性への視線のゆらぎを明快に物語る。

12「『女子』的乳房―メディアと下着と身体と」米澤泉(1970生、社会学)
 これだけ書き下ろし。なので、それまでの雑多なバラバラな論考と違って、巻末を飾る総括的論考としてまとまっており、完成度が高い。
 1990年代の見せる下着ファッションの登場に注目する。キャミソール、コスメの時代、ボディーメイク、自己プロデュース、「女の子のおもちゃ」化で「私遊び」へ、と。さらには40代モデル(平子理沙)の美魔女、大人カワイイ、大人女子が増加という社会現象に至る。自分に気合いを入れ、高揚感を味わい、勇気づけ、奮い立たせる〈勝負下着〉の鎧(よろい)的存在。
 「男のファンタジーとしての白い下着でなく、乳房の究極の所有者である女性自身の要望と欲求が反映されたものとしてのカラフルで華やかな下着=女子としての乳房」と捉えている。性的でも母性でもない、第三の意味・強さの象徴としての乳房を求めて、それを下着の力で引き出す、と言う。
 なんだか凄いことになって来た。今後の展開から目が離せないw。

「乳房学の深化のために―総説にかえて」北山晴一
 乳房をめぐる議論や研究は、社会・文化・歴史・生活の質などについて考えるにあたって、絶妙の視角を与えてくれる。乳房研究は奥が深い、と言う。
 1)乳房は身体の全体性から引き離して理解は出来ない
 2)生身の人間をこころとからだに分ける難しさ
 3)女性の固有性と普遍性の両方に注目すること
 4)個人のものだが、他者の存在や視線とも無関係ではあり得ない。社会のしくみの問題にも無関心ではいられない

 というわけで、実りの多い読書体験であった。「たかが乳房」どころではない。
タグ:心理学
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