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「陰謀論の正体! 」(田中 聡) [ノンフィクション]

〈陰謀論的な考え方がどうしても避けられなくなった現代社会のありよう〉について考察した本。

陰謀論の正体! (幻冬舎新書)

陰謀論の正体! (幻冬舎新書)

  • 作者: 田中 聡
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2014/05/30
  • メディア: 新書


 「陰謀論」については、以前似非科学=知的欲求+知的怠慢や、「『陰謀論』とは何か」(副島 隆彦)で考えたことがあるが、私のスタンスは単に馬鹿な話と切り捨てるものだったけれど、副島氏のと同じ幻冬舎新書で最近出たこの本では、そんな簡単に斬って捨て置くわけにもいかない、極めて入り組んだ、あるいは「とても面倒くさい」「多面的な情報ゲームの罠」「笑いものにすることが危うい」状況が現出している、と喝破する。目から鱗ものである。

 「陰謀論についての多面的アプローチが必要になった」と言うのだ。読み進むにつれ、なかなか容易ならぬ状況だというのが見えてきた。盛りだくさんの歴史的事例とごく最近の事象まで取り上げていて「なま物」感がある。これは陰謀論についてのメタな議論であり、副島氏の浅はかな本とはまるで違う。

第1章 大地震とともに「陰謀論」の時代が始まった
 3.11以降の状況、誰もが感じる不安を背景に、
>既存の陰謀論にはハマらなくても、出来事の背後に暗い秘密の連携を見ようとする陰謀論的なリテラシーが常態化していくことは避けられない
>目の前に見える現実が陰謀論に近づいてしまった

と説き起こす。陰謀論の歴史的展開がまず基本知識として示される。「新世界秩序」という大きな枠組。あらゆる陰謀論が出入りする一種のハブ、陰謀論データベースの核=メガ陰謀論の存在。(しかし大系的であるわりにそれを援用し組み込まれる諸説間の整合性は無い、というのがケッ作だ)
>人は誰でも見たいものを見ている。陰謀論をタブー視する人も同様
 ←〈情報の選択機制〉というやつか。
>「やつら」のことをフリーメーソンとかイルミナティとかでなく、TPTB(The Powers That Be・(神に与えられた権威の力)と呼び、エスタブリッシュメント全体に対する不信感を表す用語として有効
>事実として公に認められた時点で、「陰謀論」という汚点は消え、陰謀論でなくなる→陰謀論は陰謀論であるかぎり必ず妄説扱い→「今はまだ陰謀論だけど…」というのもあり得る
 ←という例がいくつも出て来ている、と。つまりは現実が陰謀論に近づいた証左なのだろう。
>陰謀論には、退屈な政治経済論議を「いきいきとワクワクさせるフィルター的な魅力」がある

 ←これは確かにそういう面はある。

第2章 陰謀論とは何なのか
>陰謀論すなわち「自己憐憫と思考停止」とラベリングし、「論外」とする態度(孫崎享「戦後史の正体」に対する佐々木俊尚の批判)がかえって有害で思考停止を招く
>CIAの「『陰謀論』陰謀」=陰謀論を笑いものにすること
 ←これもまた「陰謀論」の対象となる。再帰的というかウロボロス的というか。
>たとえ陰謀する主体など居なくても陰謀論的な試みは必要なのである。それも日常の出来事にこそ必要になってしまったのだ。嘲笑の政治は陰謀論や原発問題に限らず、いたるところで作動しているからだ
 ←個々の主体よりも総体として〈陰謀論的なるもの〉の偏在はあると感じる。
>「工作員」という陰謀論的存在が資源エネ庁で実際に委託されていて現実化した事例→ネット情報を読むリテラシーとして必須の注意事項になってしまった→陰謀論が描いていたような世界に現実のほうが接近したのだ
 ←ネットを観ていても、その存在はそこかしこに感じる。
>セキュリティシステム自体が罠であるような情報戦の世界
>アメリカは入植時代からずっと絶えず何者かを陰謀を企む敵とみなすことで人々がまとまって行動してきた国
>「陰謀論」は体制側の陰謀を疑うことを無効化するマジックワード。そう名指しされた時は既に情報戦の中にあるのだと考えたほうがいい
 ←そういうワードとして使われる局面はよくありそうだ。
>「陰謀」の代わりのまともな言葉、SCAD(State Crimes Against Democracy・反民主主義的国家犯罪)
 ←と言い換えることで、より客観的になり検証可能性は高まるかも知れない。
>「全てがつながっている」という陰謀論の論理は、とんでもない飛躍をすることも多いが、当たり前のリテラシーを確保しておくためのユーティリティになりえるのではないか?

 ←つまり世界の複雑化に対する、総合的な連環を注視する視点か。

第3章 陰謀論への批判の検討
 では、「人をバカにしてる」「選民思想」「物事を単純化している」「反知性主義である」「思考停止を招く」「被害者意識の産物であり、自己憐憫を招く」「根拠がない」「差別思想だ」など、多くの陰謀論批判に関して検討を加え、否定している。概ね相対的な視点、あるいは他の要因に帰しての分析で、そういう見方もできるだろう、といったところか。まぁ、そんなに簡単に陰謀論を一刀両断して済ませていいというものではない、というのは分かった。

>情報環境の高度化とともに情報操作が日常化している現代では陰謀論者はもはや古典的陰謀論者と同じではいられないのだ。現代社会では相手にすべき陰謀そのものが変質しているからである。それはわれわれが陰謀論者にならざるを得ない理由でもある。
 ←確かに古典的陰謀論は遅れてるとしか言えない。よりメタな構造に変化しているのだろう。

第4章 エージェンシー・パニックとコンスピラシー・パニック
 ここへ来て、話は一気に〈大きな物語〉化する。
>グローバル化によって領土的統合された国家の内側の政治と権力が分離し、主権国民国家は消えた。
>「いまやグローバルな上部構造が存在して経済上のあらゆる重要な決定を、いかなる国の立法政府からも完全に独立に、いわんや有権者の意志からはなおさら独立したかたちで下している」(リチャード・ローティ「リベラルユートピアという希望」より)
>グローバル資本にとってはローカルな世界は安定しているより危機に満ちている方が得るものが大きい
>国家は国民の生存を保証する能力も意志ももうあまり持っていない。グローバルな権力の経営判断がそれを優先させないからだ
 ←安倍政権の挙動を見ると符合する感がする。
>いまや社会は濃密な不確定性の不安「液状不安」に侵されている
>現代の危険の殆どは、個人の力ではその原因を知ることが出来ない。ローカルな出来事の背後には常にグローバルな世界の事情がはりついている。調べても確かな理由に近づくことが出来ず、推測や憶測ばかりが膨らむ。政治家も官僚もメディアの情報も、みなかりそめの姿でしかなく、何者かの代理にすぎないのではないか…という不安が「エージェンシー・パニック」→自己が世界から間接化し無力感、被コントロール感を強め、陰謀論を広めている。
 ←この感覚、分からぬでもない。池上彰などのの解説は一見明解なのだが、表面に見えることだけに終始していないか?
>リーマン・ショックには主犯格の人々が居たが…、共謀して悪事をなしたという証拠はない。しかし、陰謀論的な考え方でしかこの出来事の本質を浮かび上がらせることは出来ない。事件そのものがもはやフィクションの次元になっている。
 ←実体経済の何百倍?とも言うバーチャルマネーというトンデモな存在のことを思うと「フィクション」という言葉ももっともに聴こえる。
>グラットフェルダーの論文「世界的企業コントロールのネットワーク」による解析〈0.1%の株主が多国籍企業全体の80%をコントロール。0.024%が40%を〉。→過渡の少数者への支配力の集中。これはシステムの自己組織化による創発であり、トップダウンの意志によるものではないにしても、グローバルな金融資本のシステムが陰謀論者の主張するような「悪の意志」を創発してしまったということではないのか。
 ←もしかしてこれ、新たな「神の手」なのかも?などと思ったりしちゃったりもする。富を集中させず、万民平等にすると全体の資源消費量が激増して地球が保たないのを防いでいるのか?とか。まさかね。
>陰謀論者が描いてきた悪夢に、現実のほうがすっかり近づいてしまった。
>巨大システムの暴走にあっては、誰かに責任を問うことは難しい。だが陰謀論は、システムの暴走の背後に意志を見る。誰かが悪をなしたと告発する。個々人の責任を問う。
 ←ここで言ってる「陰謀論」は古いタイプの方だろう。
>陰謀論とは、世界の全体性を回復しようとするイデオロギーなのである。人とシステムが意志に媒介されてつながっている。それはあり得ない夢、すなわちユートピアの思想である。諦念を切断し、変革を夢見るための道具である。危険で、的外れで、でも今の時代には必要な道具なのだと思う。

 ←ここの表現はわかりにくい。抽象的で、方法論としては不完全では?
>フーコーの〈パレーシア〉概念……真理は絶対ではなく個々の真理は自由な主体の行為としてしかあり得ないので、全ての主体は自分なりの真理の確立に参加できる…により真理ゲームに参加しよう。誰もが確かなことがわからないという前提で生きるしかない時代に、間違っていることを怖れるな。
 ←と言うのだが、もうかなりヤケッパチ的に聞こえないでもないが、それしか無いのかもしれない。しかし、私のような〈自信のない〉〈傍観者的な〉人間にはとても困難なゲームに思える。この本が世界のありように対する見方を深めてくれた一方で、〈無力感から救ってくれた感〉は得られなかった。
タグ:陰謀論
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