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「丕緒の鳥 十二国記」(小野 不由美) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

 小野不由美の「十二国記」は昔、最初にいきなり『東の海神 西の滄海』を読んでやや要領を得なかった後、『図南の翼』を読んだことがある。こちらは良かった。シリーズ中最高傑作の声もあるのでは?
 それ以外はTVアニメで大体観た。『月の影 影の海』『風の海 迷宮の岸』『風の万里 黎明の空』に当たる部分。小説版は未読のまま、ずいぶん時間が経った。そして久々に出たのがこれ。

丕緒の鳥 十二国記 (新潮文庫)

丕緒の鳥 十二国記 (新潮文庫)

  • 作者: 小野 不由美
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/06/26
  • メディア: 文庫


 久しぶりに読んでみようという気になった。短篇集というのも気に入った。色んな人物、舞台が盛りだくさんかと。

 そもそも「十二国記」という、この壮大(まだ未完だが)なシリーズ。その世界構築は精緻でディテールの豊かさが半端ないわけだが、長編での限られた視点だけでは覆い尽くしきれない広がりがあると感じていたのも、この短篇集に注目したわけの一つ。
 その動機は部分的には果たされた。

「丕緒の鳥」
三代続いた女帝がみな暗愚のため(しかし、麒麟が選んで天命が下り王になるのに無能というのはどういうことだ?)荒廃する慶国。その国の儀式「射儀」で、鵲(かささぎ)の形を陶器を作り、飛ばして(クレー射撃のように)矢で射って撃ち落とす、その陶器の制作を司る下級官吏の丕緒という人物。
 陶鵲は射られて割れた音で曲を奏でたり様々な工夫を凝らされる。そこに悪政を諌める意図を持って演出に腐心する丕緒。魔術的な境地にまで至る。
 最後に会った新王は陽子らしい。

「落照の獄」
凶悪な連続強盗殺人事件犯の量刑(死刑か否か)に悩む司法役人。まるで現代の話。「法治」という言葉が出てくるのだが、この世界ってそんな「近代的」国家体制だったっけ?と困惑した。まさか立憲君主制? 作品の成り立ちが「浮いて」いる印象がある。

「青条の蘭」
これは一転してエコロジカルな話(その点ではこれも近代的な世界観かも)。山毛欅(ブナ)の樹々が奇病に襲われて森林破壊が進行し、国家存亡の危機となる。(今で言えば林野庁の)下級役人とその仲間の悪戦苦闘。いや、これはなかなか素晴らしい。
 風景や個人の心情などのディテールが丁寧に描かれている。
 ついに発見した薬効のある株を王宮に届けるための必死の旅程、「走れメロス」を少し連想した。
 引っ張った挙句の最後の締め方がとても抑えた筆致で、余韻の残し方が抜群。

「風信」
内乱で家族を失った少女の逃避行。これだけ下級官吏が出てこないのか?と思ったら、艱苦の果てに落ち着いた場所が、暦を作成する役人たちの職場だった。気象や動植物も含め観測に専念する浮世離れした生活感覚に反発する少女。しかし、自然の美しさ豊かさに心がほどけて行く。

***
 読んだ後、と言うか途中で気がついたのだが、この短篇集、全て〈下級官吏〉のそれぞれの持場での誠実な仕事ぶりを描いている。あの世界の諸相のうちの下級官吏の奮闘をミクロな視点で描いて、全体の世界観を補完するという意図か、と。

 本編の長編シリーズで「庶民」たちは十分描かれているだろうが、下級官吏の世界はおそらく欠けていた部分だったろう。そこにも目配りをし、緻密な設定とリアルな描写で確固とした世界構築をしている。

 やや勇み足というかモダンな発想が混入してしまった(特に第2作で)のがイマイチではあるけれど、なかなか読み応えがあった。筆力は健在。
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