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「『ストーカー』は何を考えているか」(小早川 明子) [ノンフィクション]

DVやストーカー問題に取り組むNPO法人ヒューマニティ理事長(カウンセラー)小早川明子氏の報告。
 長年の奮闘と経験と考察が詰まった厚みと人間味ある真摯な本。

「ストーカー」は何を考えているか (新潮新書)

「ストーカー」は何を考えているか (新潮新書)

  • 作者: 小早川 明子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/04/17
  • メディア: 単行本



 届け出だけで今や年間2万件以上発生しているストーカー行為。
 1500件もの案件に関わり、500人ものストーカー加害者に対する真剣な取り組み・カウンセリングを重ねて得た知見。ストーカーの心理の詳しい分析(タイプと段階など)。脳科学的所見(欲求とは第一信号系=本能を満たす行動により報酬を得る反射連鎖が、第二信号系の反射網=思考を超えて過度に働くと社会的逸脱行動を起こす)や、神経伝達物質の異常なども交えて考察している。豊富な具体例の提示が圧倒的。

 被害の段階
①マナー違反→リスク(可能性)
②不法(民事訴訟相当)→ディンジャー(危険性)切迫メールや待ち伏せなど
③刑事事件相当→ポイズン(有毒性)脅迫メールや侵入など

 関係が終わって始まる「破恋型」と、関係を築こうとして拒絶されて始まる「拒絶型」とがある。
 男性ストーカーが女性のプライベートな空間を攻撃することが多いのに対して、女性ストーカーは男性の公的な場面を狙う。

 ストーカー自身苦しんでおり、むしろ被害者意識を持っている。ストーキングは不幸を味わいながらする行為。できれば救ってほしいという思いも持っており、意外にカウンセリングに応じる率は高い、とも。
 一人で生きること自体に強い不安を持ち、「実存的な生きる安心」を求めている。過去に辛い体験を持っている者も多い。
 一方で、強い自己愛、その逆の非承認経験、責任転嫁、依存、他罰傾向、などは病的な次元に達してしまっている。
 加害者はカウンセリングによって、自分の真の問題は相手ではなく「相手から離れられない自分」にあると気づき、自分の感情を他者にぶつけるのでなく、自分が責任をもって処理することでストーキングを止め、新しい人生に一歩踏み出してゆける、と。

 この著者は内省的でもあり「自分の失敗で死者が出るの防げなかったこともある」とも正直に述べており、極めて誠実に事実を踏まえている。
 警察の不首尾(遅い、甘い)もあるが警察だけでは防げない。防止センターなどの公的機関の設立を求めている。

 私は今までストーカーなんて殆ど「狂人」で、自分とは無縁のものと思っていたが、殺人事件にまで至るのはごく一部であり、さほど変なものではなく普通の人間でも場合によっては意外に陥りやすい「ありふれた」事象なのかも、という印象を持った。ケータイやネット、SNSなどの普及が件数増加に関係があるのは確かだろう。ネットいじめと並んで深刻な社会問題という段階にきているのではないか?

 説得力に溢れた、多くの人に読んで欲しい本だ。

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