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「フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人」(速水 健朗) [ノンフィクション]

「ラーメンと愛国」で食というユニークな視点で社会を切り取った著者による、それの姉妹編(当人のあとがきの弁では「兄弟編」?)で、同様に日本人の食行動の社会的な分析・意味付けを行っている。

フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人 (朝日新書)

フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人 (朝日新書)

  • 作者: 速水健朗
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 新書


 「フード左翼・右翼」とはこれまたエキセントリックな言葉だが、これはこの本で提示される、二つのの大きく異なった食行動パターンを端的に指す言葉として提案されている。語感から政治的なイメージ・印象を受けるが、内容にさほどそれは強くはない…と言っても少しはある。およそ人間の社会的行動で「政治的」な要素が皆無なものは少ないのだから。

 まず食への態度・スタンスに関するマトリクスが表示される。縦軸の上に《健康志向》←→《ジャンク志向》(下)、横軸の左に《地域主義》←→《グローバリズム》(右)。
 この4象限で左上に来るのがフード左翼で、地産地消、スローフード、ベジタリアン、有機農業などが入る。対する右下がフード右翼で、コンビニ、ファストフード、ジャンクフード、冷凍食品、添加物農薬入りの安い食品、ジロリアンなどが入る。

 本書は主として左翼の方のあり方を論じた本で、様々な〈運動〉的な営み(ベジフードフェスタなど)が紹介される(健康志向)。
「どう食べるかは政治的なこと」であり、消費行動を通して産業・市場構造の変革にコミットすることになる、という捉え方だ。その影響は結果的でもあり、意図的でもある、と。
 アメリカ西海岸でのムーブメントなどが紹介される。日本での「政治の季節」から「食の季節」への活動家の転身なども。

 フード左翼とは「産業社会において大量生産の工場のように生み出される食のあり方に反対する立場の人々」である。
 彼らが利用できるサービスは大都市圏で増えている。田舎では享受できない。一方で旧来型左翼の定義からはみ出す要素(かつては科学的理想社会志向だったのが、遺伝子組み換え反対などテクノロジー批判・自然讃美)に傾いている。これは実は将来の世界的な飢餓の恐れをむしろ増す要素である。有機農法の効率の悪さ(土地生産性が半減)が指摘される。
 恩恵を受けるのはアッパーミドル以上のクラスであり、弱者に対する配慮が少ない。非効率や食糧難問題への冷淡さ、サステナビリティの無さ。そういうジレンマを抱えているのだ、と。
 さらに将来予想される〈膨大な老人用食事〉供給のための大規模な工場生産の必然を説き、フード左翼的な食の危うさを示す。かなり説得力がある。

 著者自身はフード右翼であったが、取材を進めるうちに、〈会話しての買い物の楽しさ〉や美味しさに目覚めて左翼に転向してしまった、と正直に語る(本来歴史的には左翼が右翼に転向することはあっても逆は無かったのに、などと)。やや自嘲の匂いがする。

 私自身はどうかと言うと、ほぼ完全にフード右翼である。がん患者でもあるし、も少し左傾しないといけないような気はしているのだが、食に関してのこだわりがあまり無いのが弱いところだ。このあいだ名古屋の友人から送られてきた有機野菜(トマトなど)はすごく美味かったのだが…。

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