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「皆勤の徒」(酉島 伝法) [SF]

 読み始めて1頁で「何じゃ、こりゃぁああああああああああ〜〜!」
…というくらい異様極まる作品だった。第2回創元SF短編賞受賞作(=表題作)。それに連なる全4篇の連作短編集。

皆勤の徒 (創元日本SF叢書)

皆勤の徒 (創元日本SF叢書)

  • 作者: 酉島 伝法
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/08/29
  • メディア: 単行本



 ねちょねちょぬるぬるぐちゃぐちゃな、生臭くて痛くておぞましいグロテスクな異生物描写が延々と続く。これには拒絶反応を示す人が多かろう。全く万人向けとは言いがたい、読者を厳しく選ぶ作品だ。(特に〈虫嫌い〉な人にはお勧めできない。〈虫好き〉であっても蝶やカブトムシ限定の人もダメ。百足とか蛆とか蛭、蚯蚓、毛虫などが好きな人向けなのだ。w)
 Amazonのレビューを見ればそれを示す面白い状態になっている。まず、数が少ない。その全員が揃って“★5”を付けている。これは当然で、評価するには全部読まねばならず、そもそも途中で投げ出した人は書かないし(いや、あそこのレビューには全く読まずにdisるだけが目的で書き込む奴も中には居るらしい、というのは某有名著作家がTwitterで言っていたw)、読了した(そういう神経の持ち主の)人はこういうのが好きだからこその高評価という結果だろう。

 大森望氏が「解説」という単行本にしては極めて異例なものをつけており、その一部が(全体で8頁のうちの5頁分)ネットに公開されている。それ↓によると大絶賛である。

>現代日本SFの極北にそそり立つ異形の金字塔にして、SF的想像力の最長到達点を示す里程標である。

 これまた大きく出たなという印象だが、読んで見ると決して誇大ではない。全くすごい新人が出てきたものだ。

 舞台は地球とは隔絶した無関係の遥か銀河系の彼方の一惑星かと最初思った。なのになぜ地球人の意識らしきもの、「社長」とか「納品」とか「取締役」とか、人類が使う概念・用語が混入してくるのか? そもそもこんな異質な生物の思考を記述できているというのが妙と言えば妙だ。なんでこんなに「人間的」なんだろう?と…その理由は「読めばわかる」w。

 それにしても読みにくいし、わかりにくい。大森氏も「一回読んだだけではとても全貌が把握できない」とか言っている。夥しい創作漢語(その多くは地口である)自体がわかりにくいし、説明をあえてしていないので状況を把握しにくい。その引っ掛かりがスムースな視線移動を妨げしばしば読みが停滞する。
 これを書くに要した手間と努力は相当なものだろうが、あまりにぶっ飛び過ぎで、描写記述によるイメージ喚起力のレベルは決して巧みとは言えない。
 まぁ、言葉にするには文字通り「筆舌に尽くしがたい」ような異様な世界を構築できているので、その妄想力の強さをこそ称揚すべきではあるのだろう。
 それが証拠に作者本人の手による鉛筆画イラストが沢山(17枚)掲載されている(絵師としての才もあるようだ)。それで言葉によるイメージを修正補強できる効果はあるのだが、親切だとも言える一方、実は作者の言語表現力の限界を自ら吐露する行為であるとも言えるのではないか? 作家だったらもっと言葉で勝負すべきだ、と。純然たるテキストデータだけでは成立し得ない、というのでは後世への保存性(例えば青空文庫への登録)の点でも弱点であるとも言えそう。

 その読みにくさだが、最初の表題作から次作へと進むにつれてだんだん読みやすくなってくる。第2部「洞(うつお)の街」は学園青春ドラマ的だし、第3部「泥海(なずみ)の浮城」は探偵推理ものっぽいし、慣れの問題でもあるかもしれないが、こういう順序構成にしたのは(発表順というわけでもないし)どうしてなのか? 描かれた時代の古い順のほうがわかりやすいのでは?とも思う(大森氏は第4部「百々似隊商」から先に読む事を推奨している)。
 第1部で煙に巻かれ途方に暮れながらも、その異様な文体に嫌悪感や吐き気を抱きつつも底知れぬ魅力を感じて難渋しながら読み進めて、次第に世界像がおぼろげながら立ち現れていく過程を味わうという、この構成順であえて読むのが正解なんじゃないだろうか?

 かように異様すぎる作品ではあったが、SF的な要素すなわち未来の地球人類文明の変化転変を描いている、という点でまぎれもなく正統的SFと言える。
タグ:大森望
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