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「64(ロクヨン)」(横山 秀夫) [小説]

横山秀夫の名声は以前から聴こえていたが、「半落ち」「クライマーズ・ハイ」「第三の時効」などなど、気にはなっていたものの読んだことがなく、これが初めての作品。2013年度「このミス」「文春」ベストワン。そのためか図書館に予約して待つこと幾星霜、1年半くらいでやっと順番が回ってきた。葛飾区立図書館群には計18冊も蔵書があるのに、だ。人気の程が伺える。(ちなみにさっき見たらいまだに予約数280件 w)

64(ロクヨン)

64(ロクヨン)

  • 作者: 横山 秀夫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/10/26
  • メディア: 単行本



 いや〜凄い! 面白い、と言うよりズズーンと胸に迫る作品。読み始めたら引きこまれ、一気読み。リーダビリティは高い(「皆勤の徒」を読んだ直後だけにw)のだが、その世界(警察内部の抗争・組織力学、マスコミ対応、家族の葛藤)の多人数で複雑に入り組んだ関係性と時間の交錯、その重厚さに、読む速度はそれほど速くならなかった。

 一番響いたのは、すさまじいディレンマと苦境に敢然と立ち向かう主人公のプロ意識、その矜持の心だ。生々しく、痛々しく、時には情けなく、そして雄々しい。
 後半で勃発する新たな誘拐事件のあっと驚く展開、ドンデン返し、先が読めない。予想を裏切る急展開。これは興奮を誘う。ページを繰る手が早まる。ご都合主義の要素は若干あるのだけれど、迫真のストーリーテリングがそれを意識させない。
 見事というしかない、素晴らしい作品だった。

 組織内の抗争、権謀術数というテーマについて。
 私はこの手の話(〜内政治の類)はあまり好まない(例えとしては不適切かもしれないが、イ・ビョンフンの「チャングム」「イ・サン」までは観ていたが、もう宮廷内権力闘争劇にはウンザリと「トンイ」は観るのをやめた)ので、「警察の内紛(事務屋VS刑事)」という内容紹介を読んで少しためらったのだが、警察組織の中央と地方との関係、刑事部と警務部との対立は興味深かった。また刑事という仕事のありようについても。
 考えてみればヒトは社会的動物(犬もそうだが)であって(だからこそ「人間」と呼ぶ)、どんな社会にも〈政治〉は付き物なのだった。人間の業とも言えるが、避けて通ることはできない。

 ミステリーというジャンル、なかでも知的パズル(謎解き)に過ぎない本格ものは、貴重な時間を費やして読むほどのものとは思えず、殆ど読んでいないのだが、これは違う。〈ミステリ〉のカテゴリに書くか〈小説〉のそれに入れるべきか、迷うくらいに〈人間〉の心理描写に長けている。その深さ広さ、「全体小説級」と言っては言い過ぎか? なので、あえて「SF・ホラー・ミステリ」のカテゴリーではなく、「小説」の方に入れることにした。エンタメ性も十分あるんだけれど。

タグ:ミステリ
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