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「宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 」(吉田 たかよし) [サイエンス]

宇宙生物学とは、「地球に限定せず、宇宙全体の広い視野で生命の成り立ちや起源を解明する学問」であり、こ「のアプローチによって、従来の医学では説明がつかなかった、さまざまな人体の謎が解明されつつあ」る、と紹介されている。これは面白そうだ、と手に取った。

宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (講談社現代新書)

宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (講談社現代新書)

  • 作者: 吉田 たかよし
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/09/18
  • メディア: 新書


第1章 人間は月とナトリウムの奇跡で誕生した

 生物の生理(神経や筋肉)に重要な役割を果たしているナトリウム。それが海水に溶け込んだのは、月が昔、今の1/12の近距離にあって、地球も6時間で自転していた頃に、激烈な潮の干満をもたらして地殻からナトリウムを溶け出させたことによる、と言う。以前読んだ「もしも月がなかったら」を思い出させる記述。
 また月は地球の地軸を安定させていたこと生物に恩恵を与えた。

第2章 炭素以外で生命を作ることはできるのか?

 炭素に(周期律表上)似た元素で同じく4価の電子の手を持つ珪素は生命を構成できそうだという、アジモフの考えた珪素生物シリコニーだが、珪素化合物は水に殆ど溶けないという致命的な性質があるために生物の材料たり得ないという結論に至る。水という媒体が生命活動(物質の移動と反応)に決定的に必要な環境をもたらすこと(尿路結石にならぬよう、水はたくさん摂ろう)。

第3章 宇宙生物学最大の謎 アミノ酸の起源を追う

 アミノ酸の由来は地球ではなく宇宙の可能性が高い。たった20種類のアミノ酸が(カルボキシ基-COOHとアミノ基-NH2で)鎖のようにつながってできる組み合わせは膨大。
 炭水化物ダイエットは極端で危険。エネルギー源としては炭水化物は廃棄物としてCO2と水しか出さないクリーンなものだが、タンパク質を燃やすと含まれる窒素から毒物であるアンモニアが出来てしまう。

第4章 地球外生命がいるかどうかは、リン次第

 セントラルドグマ(DNAが生命機能の本質)。DNAの塩基(ACGT)をつないでいるのはリン酸と糖、エネルギーを生むATPもリン酸を含み、両者はよく似た化学構造。
 リンは海水にも地中にも希少なので、植物はリン酸が必須(窒素、カリと並んで)だが、ヒトは食物(全てにリンは存在)から摂るので特にサプリは不要。

第5章 毒ガス「酸素」なしには生きられない 生物のジレンマ

 本来地球に酸素は無かった。不安定ですぐに他の元素と化合してしまうから。酸素が毒となる嫌気性細菌が最初の生物。
 酸素呼吸がもたらすエネルギー量(ATPの生成量)は非常に多く、これにより多細胞生物が可能になった(嫌気性は全て単細胞)。
 ミトコンドリアは元々はリケッチアという別の微生物だったものが取り込まれて共生している。葉緑体もシノバクテリアだった。

第6章 癌細胞 vs.正常細胞 「酸素」をめぐる攻防

 細胞の本能は〈すきあらば分裂増殖〉で、これは酸素によって得た能力。
 脳は大量に(2%の重さなのに20%の)酸素を消費して活性酸素を増やしている。活性酸素は癌抑制遺伝子を壊す。ヒトに癌が多いのは脳が大きいため。
 植物が抗酸化物質(カロチンやリコピンなど)を多く含むのは、紫外線にさらされて活性酸素が出来るのを防御するため。ヒトも日光に当たると抗酸化物質が増える。

第7章 鉄をめぐる人体と病原菌との壮絶な闘い

 ヒトは鉄分を少なくすることで、それを欲する細菌による感染症を防いでいる。鉄が体内にたくさんあると細菌に有利になる。
 女性の月経による貧血は細菌に不利になるようにするため。腸からの吸収を敢えて抑えている。
 貧血の多い遊牧民に鉄剤を与えたら貧血は減ったものの感染症が蔓延した事例。
 母乳に多く含まれるラクトフェリンは鉄結合力が強く、赤ちゃんを細菌感染から守る。

 …と、地球の誕生から、その天文学的な成り行き、地質学要素、生化学的な展開などなどを巨視的に、また元素原子レベルで微視的に、生命活動の本質に迫っている。人体を所与のものとして器官的にアプローチする医学でなく、その宇宙的規模での背景から(通時的に)考察する手法は明快でとても面白かった。
 直接病気の治療に役立つことはなくても、このように本質的な分析はその《厚み》から実用の次元にも良い影響をもたらすように思えた。
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