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「南極点のピアピア動画」(野尻 抱介) [SF]

 インターネットを舞台や題材にした小説は今や結構な数あるだろうと思うが、この連作短編集は、モロにど真ん中のネットユーザー(特にTwitterとニコニコ動画のユーザー)向けの作品である。本文中にたくさんURLリンクが埋め込まれて当然なくらい(つまり、この作品は電子書籍向けなのである)、インターネットへの言及性が高いのだ(つまり楽屋落ち的)。
 作者の野尻抱介氏の名前はもちろん知っていたが(ニコ動上は「尻P」)、今まで読んだことがなかった。むしろ最近のオンライン上の活動のほうが顕著で、Twitterで私もフォローしているのだが、アニメ「そらのおとしもの」で出て来た空飛ぶパンツ(こちらのED参照)から着想を得て、実際に羽ばたき型模型ヒコーキで作って飛ばしてしまうというこれで話題になったりしていたのは把握していた。
《以下、若干ネタバレ気味》
















「南極点のピアピア動画」
 ニコ動と初音ミクを背景に、変則的な有人宇宙飛行に挑む技術開発の話。なんて書くとナンノコッチャ?だが、いかにも技術畑出身のSF作家が書く話っぽい。
 ところで、私は初音ミクが嫌いとまでは行かないが、好きではない。あの歌声は妙に甲高く、また唱法は(「調教」の程度にもよるが)機械的で稚拙極まりないのが多くて、「不気味の谷」にすら達していないと思う。あれがなんであんなにウケまくりなのかわからない。
 なので、共感できず感情移入もしにくかったのだが、「プロジェクトX」的な熱い思いの実現への工夫と努力とひらめきについての技術的描写はとてもリアルな説得力があって面白かった。かなり「ご都合」的なところはあるにしても、工学的配慮が行き届いてる、と言おうか。さすがは元技術者の面目躍如。(2009年度第40回星雲賞・日本部門短編賞受賞←そんな前だったのか!)

「コンビニエンスなピアピア動画」
 舞台はハミングマートと架空名に変えてあるが、明らかにファミリーマートである。ここの入店時チャイム音がいじられて、ここにあるように、ニコ動で遊びの対象になっているのを下敷きにしている。
 と、導入は日常レベルの些細な話なのが、宇宙でも生存できる蜘蛛を衛星に積み込んで、その吐き出す強靭な糸を使って軌道エレベータを作る、というとてつもなく壮大な展開となる。唖然、である。ちょっと脳天気な印象はあるが、だがそこがいい。

「歌う潜水艦とピアピア動画」
 自衛隊の退役潜水艦を改装して、初音ミクの歌声を変調した音声でザトウクジラと交信しようという、これまたオタッキーな計画。それがうまく行ったどころの話ではなく、なんと海底で異星文明との第三種接近遭遇に至るという「アビス」の剽窃みたいな展開。それにしても、2Dキャラが3Dになってしまうというのはいくらなんでもぶっ飛び過ぎではないのか。だが、そこがいい。(2012年度第43回星雲賞・日本部門短編賞受賞)

「星間文明とピアピア動画」
 前作のぶっ飛びぶりがさらに加速する。3D初音ミクが大増殖を始めるのだ。もうこれはあれよあれよの展開で、最後の最後で大風呂敷を盛大に広げまくって終わるという、お前はA.C.クラークか?!と言いたくなるような、明るく楽天的な結末に至る。ことここに至っては、いやはや「素晴らしい!」としか言い様がありませんです、はい。
 エンディングで歌われる「ハジメテノオト」の曲は知らなかった。曲としてはいい曲だが、やはり調教が不十分な印象はある。特に間(休符)のとり方に。

 それにしても、初音ミクを「小隅レイ」、ニコニコ動画を「ピアピア動画」と言い換えてるのは商標的な理由なのだろうが、この作品内で、津田大介氏が実名で登場したのには噴いてしまった。勿論ご本人も了解済なんだろうが、最近の露出ぶりの凄さは感じていたものの、まさかここにまで登場するとは! 恐るべし!
 そのくせ、東浩紀が出て来なかったのは〈?〉か?
 巻末解説でドワンゴの川上会長が大いに内輪話を語ってくれるのも、とても面白かった。おすすめ。
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