SSブログ

「ジェノサイド」(高野 和明) [SF]

この前に読んだ「舟を編む」は本屋大賞1位、これは同じく2位だった。
 その2冊が同時に図書館から回ってきた。予約した時期には差があるが(どちらも相当待たされた。100人以上の予約待ち読者が居た)、奇しくもこういう組み合せで借りられるというのは初めてだ。単なる偶然だが。

ジェノサイド

ジェノサイド

  • 作者: 高野 和明
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/03/30
  • メディア: 単行本

 「週刊文春」と「このミス」ともに2011年度で堂々の国内編トップを獲得しているのだが、「SFが読みたい 2012年版」では6位なのが微妙なところ。私は純然たるSFだと思うのだが、謎解き、サスペンス、戦闘場面など、盛り沢山の要素が、ミステリファンに大いにウケたのではないか?

 と、かくもメジャーな作品で出版後1年も経っているので、ネット上にも多くの書評があるだろうし、この期に及んで今更私が言うことは何もないから「堪能した!」の一語で済ませてもいいのだが、余談的に書こう。

 半世紀前、まだ私が父親と一緒に入浴してた小学校低学年の頃、湯船に浸かりながら父にこう訊いたことを憶えている。「ヒトが猿から進化したんなら、そのうちヒトも何かに進化するの?」と。その頃「ミュータント」という言葉や概念が一般的に知られていたかどうかは不明だが、科学方面に疎かった父は「ヒトが最後で、次はない」と断言した。そう言われても素直に受け入れる気はせず、得心できなかった記憶がある。
 ミュータントもののSFは多いが、読んだので今すぐに思い出せる作品は「スラン」、「継ぐのは誰か」くらいしかない。もっと沢山ある筈だが…。ESPものとも関わるし。

 で、この作品、あまり「ご都合主義」は感じず、リアルさがあった。仔細に見ると、ちょっと無理筋な要素もあるのだが。
 何よりも、執筆にあたっての取材が凄い。たくさんの一流の薬学研究者に会い、また創薬に関してだけでなく人類学、進化学、アメリカの戦争・諜報活動、戦史などなど多くの参考文献にあたっている。ネット関連では高木浩光氏にも教えを乞うていて驚いた。著者の勉強ぶりは相当なもので、それだけの蓄積の上に構築された物語である。
 アメリカ大統領・バーンズはあのブッシュそのもので、もう最悪凶悪に描かれている。全く同感である。時代設定を架空にしておらず、イラク戦争直後にしているので、名前を変えてももう隠しようもない。このリアルさが作品にセミフィクション的な迫真力を与えている、その辺もあまりSFプロパーとして扱われなかった理由だろう。
 人類の醜さ凶悪さがこれでもかと描かれるが、それに抗する善性も語られる。読後感は希望に満ちているわけではなくて、巨大なスケールの中で人類という種がどうなっていくかに思いを馳せさせる、充実した読書体験をもたらした。

 傍線を引きたくなった箇所を一つ引用しておく。
>ネオナチや白人至上主義者など、己の暴力衝動を政治思想に仮託する似非右翼には、共通の心性がある。自尊心の歪んだ発露である。彼らは生育歴などの問題から自己を直接肯定することができないため、自分の所属する集団を全肯定した上で、その集団の成員である自分は素晴らしいという論法を取る。しかし実際は、彼らの関心が自分自身にしか向けられていないのは明白で、その証拠に攻撃の矛先は主義主張に異を唱える同胞たち、全肯定してみせたはずの集団のメンバーにも向けられる。(P433)
タグ:ミステリ
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。