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「ラーメンと愛国」(速水 健朗) [ノンフィクション]

このタイトルを最初に見たときに、何か「週刊spa!」の特集記事みたいなタイトルだと思った。あのなんともヘナヘナな雑誌によくある色物記事を連想したのである。あるいは「ジョージ・ポットマンの平成史」みたいな、おふざけの混じった企画物のような…。
 ところがどっこい、非常に硬派の地道な研究調査の上に成立した論考であった。失礼しました。

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

  • 作者: 速水 健朗
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/10/18
  • メディア: 新書


 最近の新書というのは、数時間喋った程度の簡単なやっつけ仕事で出来上がったような、薄い軽いものが多いような印象があるが、この本は相当な手間をかけている、誠実な仕事だ。
 明治以降の日本の食、その変遷を中華料理からの影響も交え、ラーメンという国民食がどのように成立したかということについて、様々な歴史的社会的要因を踏まえて考察している。戦後の大混乱した経済から立ち上がって高度成長、バブル、失われた20年に至る過程での食の文化の変遷についても触れている。中でも大きなテーマは勿論インスタントラーメンの発明発展だが、ご当地ラーメンの隆盛から、さらなる変化としての「ご当人ラーメン」の職人的匠の勃興に至るまでを具体的に詳しく追っている。そこで最後に見出されるのが「ナショナリズム(的なもの)」であることから、この本のタイトルが決まったのだろう。

 「ラーメン」と「愛国」とは、これは異様な組合せである。あまりに意表を突かれる表現だ(だから冒頭のような印象を持ったわけだが)。今まで考えもしなかった視点である。ラーメン屋へ行くときに「♪見よ東海の空明けて〜…」と愛国行進曲でも歌いながら入るのかお前は?!と。私はラーメンは勿論好きでよく食べているが、まさか「愛国」とは寸毫も思いが至らなかった。いや、そう言われてみれば思い当たるフシが無いでも…いや、やっぱりないな。
 もっとも、この本で言われる「ナショナリズム」はネトウヨが馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返す「反韓・反中」のヘイトスピーチ的排外的なものではなく、むしろ寛容な多文化主義的文脈の中で、〈趣味的・遊戯的・リアリティーショー的・フェイク・捏造された伝統〉を詰め込んだものなのだった。面白い見方である。あくまでも消費文化のバリエーションの一つとして、今のラーメンはある。インターネットによる、個人の品評がブログやSNSでおびただしく流通する、情報の爆発状況が背景にあってこその現象と思えた。ラーメン好きな人は読んでおくべき一冊。

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