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「アッチェレランド」(チャールズ・ストロス) [SF]

 しばらくぶりにSFの大作を読んだ。2段組みの500頁、しかもSF特有のジャーゴンだらけで密度が濃く展開が速い(題名は「加速」を意味するらしい)ので、読むのにえらく手間取った。
アッチェレランド (海外SFノヴェルズ)

アッチェレランド (海外SFノヴェルズ)

  • 作者: チャールズ・ストロス
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2009/02/25
  • メディア: 単行本
 元々英語での洒落を多く含み〈翻訳不可能〉に近い作品を、あえてここまで訳した酒井昭伸氏の力量たるや凄いものがあるんだろうけれど、それでもやはり読みにくかった。サイバーパンクって、その文体というか一種荒涼とした世界観が、私ゃ元々苦手なせいもあるのかも。
 この作家の作品では「シンギュラリティ・スカイ」を読んだ事がある。その時も書いたが、いろいろなガジェットが何の説明も無くどんどん使われるので、初心者にはまず歯が立たないだろう。イーガンの「ディアスポラ」に似た設定なのだが、より猥雑だ。
 今回のもシンギュラリティものだが、それを宇宙規模にまで広げて、人類と言うより太陽系の物質全部の進化(物質の知能化)というトンデモなレベルにまで展開している。例えば
>太陽系の演算パワーは現在1グラムあたり1000MIPS、…各惑星の到達可能な地殻中に存在する無知能物質はもはや1%…
などという記述が頻出する。何しろ太陽は自己複製するナノマシンの塵(材料は水星や金星)で何重ものダイソン球に覆われ、赤く霞んで見える、というとてつもない未来図が出現している。その中の演算能力は人類全体の何兆倍だか見当もつかず、人類の末裔が太陽系外縁辺りで、テクノロジーの極度に発達した(指を鳴らせば床からテーブルが出現し、空中から酒が無尽蔵に出て来るような)「理想郷」的な世界に住んでいるのだが、実はそこは「ド田舎」もいいところ、なのだ。
 そういう壮大な世界の一方で、ある非凡な家族の三代記という極めて等身大の、しかしあまりにも異様な家族関係や経済(2.0と進化した世界)も描かれる。人格はコピーされ保存され転移され、それらがまた別個の生を営み、世代を超えて交わり、、、と混乱の極致である。イヤハヤ南友。
 それにしても、この変化が21世紀中に起こるというのは、いくらなんでも「加速」しすぎではないか?
 ともあれ、2006年ローカス賞受賞のこの作品、SFの今はどうなっているか、を知るには必読の書、という感は強くした。

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