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「長生き」が地球を滅ぼす ― 現代人の時間とエネルギー ―(本川 達雄) [ノンフィクション]

「長生き」が地球を滅ぼす ― 現代人の時間とエネルギー ―

「長生き」が地球を滅ぼす ― 現代人の時間とエネルギー ―

  • 作者: 本川 達雄
  • 出版社/メーカー: 阪急コミュニケーションズ
  • 発売日: 2006/01/20
  • メディア: 単行本
「ゾウの時間、ネズミの時間」(←ツン読本の中にある)がベストセラーになった著者がその生物学的時間論を社会科学的・文明論的に拡張して展開した本である。2006年発行だが、1996年に「時間 生物の視点とヒトの生き方」という書名で出た本の増補版で、今頃になってこの本の存在に気づくとは不明の至り。最近また行き始めた図書館で「老後関連書」コーナーで目について、セカンドライフを迎えた自分にとって読むべき本と思えたので借りて読んだ。 まず生物学的な導入から始まる。動物はそのサイズによって経験する時間の速さが異なる。小さい動物ほど心臓は速く鼓動し、心拍数は体重の1/4乗に比例する。大きな動物ほど寿命は長い。どの動物も一生に心臓は15億回打つ。時間の速さはエネルギー消費量に比例(変温動物<恒温動物)するのが動物の普遍的基本デザインとなっている。生物学的時間とは一直線のキリスト教的ニュートン的絶対時間ではなく繰り返しの円環的周期である。現代人は体が使う40倍ものエネルギーを使って「恒環境動物」(環境までも高速・高精度・安定・安楽で便利にしている)となった。ちなみに10倍を超えたのは1961年。現代人の1日は縄文人の1ヶ月。
 代謝時間という考え方(=絶対時間でなく単位時間内にどれだけのエネルギーを使うか、つまり代謝速度を時間の速度と考える)→エネルギーを多く使うほど時間は速く進み代謝時間は短くなる。
 子供時代の代謝時間は短く、老人は長いので年をとると時間が早く過ぎ去ると感じる。小学生の授業時間45分は大学生の90分授業と等しい。
 時間環境(社会のテンポ)は速くなりすぎている。ヒトの長寿は人工(自己家畜化)的にエネルギー大量投入により達成された不自然なもので、生殖・子育てが終われば死ぬのが動物本来のあり方であり、50歳からの余生は〈おまけ〉である。昔は50歳で死んでも普通で「早死にで損」とは思わなかったのに、今では多くの老人が「もっと生きられる筈なのに早死にして損だ」と嘆きながら死んでゆく。これは不幸だ。前代未聞の超高齢化社会に、昔からの既存宗教では老いに対処する智慧は無い。「親孝行はせいぜい子が50歳まで」と割り切ってサバサバとすべきだが、既存の倫理では対応しきれず指針はまだ無いのが困ったところ。
 化石エネルギーを贅沢に使って長寿を実現していることは、借金のツケを子孫に払わすようなものだ。科学の進歩によるエネルギー問題解決の希望(=科学信仰)には確実な保証は無い。
 老人の時間は若者と違う。自分のペースで生きよ、長生きに拘泥するな。時間を自分でデザインし、急かされずに本当に人間らしい時間を生きよう。老後はそれまで働いた〈ごほうび〉には値せず、〈おまけ〉の期間は全く別の存在と捉えよう。働かずに済むことは良いことではなく、動かないのは動物として不自然で、働いてこそ休暇の喜びがあるので働くことが幸せなのだ。次世代の未来につながることが生きて行く意味なので、おまけの人生でも広い意味での生殖活動(孫の世話、生産労働、奉仕などの社会貢献)をすべきであって、ボケーっとした過ごし方では代謝時間はとても長くなり、老いの人生はあっという間に過ぎ去ってしまう。
(以上要約)

 非常に分かり易い文章で説得力がある。既知のことも多かったが、漠然とそうじゃないかなと思っていたことも明確に整理されているし、目から鱗のところが沢山あった。自然科学から社会科学的視野での文明批判のメッセージを発していて考えさせられる。自分の今後の過ごし方を〈おまけ〉なりに意義あるものにしなくては、と今更ながら課題を与えられた気分だ。この本は老人に厳しい内容になっている(福祉を否定している訳ではないのだが)ので、タブー扱いされたのだろうか、あまり知られていないようだが、正視すべき話じゃないかと思う。既に高齢者医療や介護制度などは崩壊しかけているわけだし…。著者自身団塊の世代に属しており、自分でも「生への未練」を隠さず正直に述べているのだが、それでもなお社会的生物たるヒトでありかつ生物学者でもある者としての矜持としてこの本を書いたのだろう。
 今、百年に一度の危機などと言っているが、単に景気浮揚の消費拡大などで糊塗して済まされる状況ではないと思う。経済成長をこれ以上続けられるような生易しい事態ではない。現代文明そのもののドラスティックな見直しが迫られている時代ではないか。この本はもっと読まれてよいだろう。
タグ:生物学
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ub7637

「ゾウの時間、ネズミの時間」は以前さらっと読んだのですが、このような本が出ているとは知りませんでした。おもしろそうですね。

> まず生物学的な導入から始まる。動物はそのサイズによって経験する時間の速さが異なる。

代謝時間という考え方は、科学的に根拠がありそうですが、広く認知されている事柄なのか、それとも、ただの筆者の主張なのか、気になるところであります。
by ub7637 (2009-05-07 23:55) 

ask

>広く認知されている事柄なのか、それとも、ただの筆者の主張なのか

うーん、よくわかりませんが、Wikiで引いても出て来ないし、まだ広く認められているとまでは行ってないのかも。
by ask (2009-05-08 00:42) 

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