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箸の正しい使い方 [実用]

【この記事を読みに来られた方へ】
 この〈箸の使い方〉を説明する記事は、より適切に書き直した改訂版がありますので、そちらをご覧下さい。
 (一応旧版も削除はせず、以下に載せておきますが。)









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 世の中には驚くほど、「箸を正しく使えない」人が多い。
 老若男女、階層を問わずにである。私見では、日本人の約半数は箸を正しく使えていない。つまり6千万人以上が、だ。これは途轍も無い数字である。こう断言出来るのも、実は私は【箸の使い方ウォッチャー】だからである。街のラーメン屋やレストランなど、不特定多数の人が食事をする場面では、他人の箸の使い方を観察するのが癖になってしまっているのだ。
 なぜそんなつまらぬこと(?)に拘るのか、その理由を示そう。

 私が箸を正しく使えるようになったのは、正確には分からないが、小学2年生の頃だったと思う。
 夕食の団欒時に、父が、私の箸使いを見て、「こうやって使うのだ」と教えてくれた。それは極めて明快な説明だった。私は深く納得し、「ユリーカッ!」(に相当する言葉)を発した。その場で練習することなく完璧に使いこなせるようになったのである。そのときの記憶は極めて鮮明であり、これこそが私のこだわりの原点なのだ。
 つまり、箸はセオリーが大事なのだ。自転車の乗り方、泳ぎ方など、身体図式の新たな形成に近い面はあるものの、繰り返しの練習は殆ど不要なのである。要は箸のメカニズム頭で理解すれば足りるのだ。
 箸は2本の棒状の物を用いるが、その2本は1本ずつ全く違う役割機能を果たしている。そのことが分かっていない人が多いのだ。漫然と2本の棒が等価で、互いに寄ってきてピンセットのようにモノを挟む物、とでも思っているのであろう。「上の箸と下の箸」とではまるで異なるのだが、それをパソコンのマウスというポインティングデバイスに例えて説明しよう。
 下の箸はマウスのボール(オプティカルマウスなら光学センサー)に当たる。上の箸はクリックボタンである。これほど機能が違うのだ。下の箸で目標物の位置を特定し、上の箸を押下して掴む、という連続的な動作こそが「正しい箸の使い方」なのだ。逆に言えば、パソコンでマウスを使える人は全て箸を正しく使うことが容易に可能な筈なのである。
 まず、下の箸の持ち方だ。親指の付け根と手の間に挟み、薬指の第1関節辺りに添えて、がっちりと固定する。手に対しては動く余地はなく、手と一体化してしまう。親指で押さえつける力はとても強く、ヤワな割り箸では往々にして折れてしまうほどだ。この下の箸を動かすのは、手首と腕の動きだけである。
 次に上の箸であるが、親指の先、人差し指、中指の3本のフリーな指を使って、鉛筆を握るように持つ。下の箸はちゃんと保持固定したままである。この状態で動かせるのは上の箸だけで、大きく開いたり閉じたり出来る(その角度たるや45°近くまで行くほどなのだ)。これは鉛筆で縦線を引ける人ならそのまま容易に出来る動作である。
 食卓上で狙った料理の位置まで、手首と腕を動かして、下の箸を誘導する。つまりマウスならカーソル移動である。目標物の下に、その下の箸を差し入れ、しかるのちに上の箸をクリックして掴む。掴んだまま、つまりマウスボタンを押したままで、口まで運び、口中に落とす、つまりドラッグアンドドロップだ。これが全てである。
 ということは、箸というものは、古事記にも登場する(須佐之男命が、川を流れて来た箸を見て上流に人が住んでいると知る、という記述がある)神代の昔から実現されていた、三次元マウスというハイテクなのである。
 これを会得(というほどおおげさなことではないが)すれば、大は直径5センチ以上の大根でも、小は米粒ならぬごま粒であろうと、すばやくしっかりと着実正確に掴むことが出来るのだ。さらには掴むのでなく、寸止めのような半開きの状態を保って豆腐を崩さずに取ったり、開く動作を持って魚肉を裂いたりほぐしたりすることも容易なのである。
 ちなみに、高橋留美子の漫画「うる星やつら」には「ひょいぱくひょいぱくひょいぱく」というオノマトペが頻出するが、こういう表現を発想し得る高橋氏は箸を正しく使える人であることは明白であろう。

 さて、「獲得形質は遺伝しない」というのは生物学的には正しいが、こと箸に関しては間違いで、箸を使えない親の子どもはやはり箸を使えない、というしつけ、教育を通じての「獲得形質の遺伝」状況があると思われる。
 人品骨柄卑しからぬ年配の紳士が、箸をちゃんと使っていない場面にたびたび遭遇してびっくりすることがあるが、この形質遺伝子の分布は学歴や貧富の差、社会的地位などとあまり相関はないようである。
 私は箸を正しく使えない人を馬鹿にする気はない。彼らは不器用どころか、あのような変則的な持ち方でも食事を出来ているという点で、いわばアクロバティックな能力があり、極めて器用であるからだ。私にはとても真似できないである。卑下する必要はない。ただ、箸も使えないのに〈グルメ〉を気取っている人(が実際結構居るんですよ。半分とまではいかなくても)については、まさに「噴飯」ものではあるのだが。
 見知らぬ他人が間違って使っているのを見て、ついつい教えて上げたくなって、ぐっとこらえている私であった。箸の使い方について問題意識は皆無な人が多いから、要らぬお世話だろうし、侮辱するつもりは毛頭無くとも「人前で喧嘩を売ってるのか!」と受け取られるのは必定だから…。
 それにしてももったいないと私が思うのは、箸の使い方によって食事の味は数段美味くなるのに、ということである。今まで正しく箸を使って来なかった人の、食事の味わいに被った損失をあえて金銭に換算すれば、若い人でも数百万円、年かさの人なら千万円単位をしているのではないか、と思われる。
 この記事を読む人の半数はおそらく箸を正しく使っていないであろう。(いや、そういう人たちはこの種の文章はハナから読みたがらないから、もっと少ないか?)上に書いた説明を読んで、どうか正しく使い方を知って、美味しい食事を楽しんで貰いたいものだ。


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ともち

初めまして。お邪魔します。
私には難しいことはわかりませんが、見られても恥ずかしくない箸使いをしたいものです。美しく、そして美味しくお料理を頂くためにもね。
by ともち (2006-09-04 11:42) 

ask

ともちさん、いらっしゃいませ!
コメントありがとうございます。
ブログを始めて1週間、初めてのコメントを頂いて嬉しいです。
と言っても、最初に私の方で呼び水をあなたのページに書いたので、
純然たる思いがけないコメントとは言えないかもしれませんが。
ブログって書いただけじゃあまり読まれないもんなんですね。
ところで、
>難しいことはわかりませんが、
と書かれてますが、確かに私の書き方はちょっと衒学的というか
持って回ったご大層な表現が多いかもしれません。
人によってはイヤミったらしい文章と受け取られかねないことは承知してます。
気に障ったらお許しを。
by ask (2006-09-04 23:21) 

cloudcollecter

初めまして、どうもです。
箸を片手に読ませてもらいました。
なるほど、分かりましたよ。どうして「箸の持ち方、変だよ」って言われる理由が。
改めて、自分の持ち方を見てみたら親指、人差し指、中指の3本だけをを使ってました。
(ちなみに下の箸が人差し指の付け根と親指の間接と中指の先で押さえる、上の箸が人差し指の付け根と第一関節の間と人差し指の先と親指と中指の側面で押さえる感じです。)
ココで言うトコの上の箸の持ち方に近い状態で2本持ってました。
でも、その状態で開いたり閉じたり出来るのは、ある意味凄い?
by cloudcollecter (2006-09-21 19:15) 

ask

cloudcollecterさん、いらっしゃいませ!
この記事で「なるほどわかった!」と言ってくれた人、第1号です。
しかし、もう60人もの人が読んでる筈なのに、他にそういう反応がまるで無いということは、
あなたのブログへのコメントで「これを読んで使えない人は一生使えないだろうというくらい自信がある」と書いたその自信がぐらついちゃってます。
by ask (2006-09-21 23:30) 

あき

すごい古典を踏襲しつつ斬新な説明ですね!

食卓上で狙った料理の位置まで、手首と腕を動かして、下の箸を誘導する。
このあたりなんか興奮しました。
by あき (2006-10-03 14:37) 

通りすがりの者ですが。

お箸の使い方”が美しくないので検索をしていたら、
他のブログにリンクがあったので読ませて頂きました。

”私の書いたのを読んでも使えなかったら、一生使えない”という事でしたので^^

親指の付け根と薬指で下を固定、
親指と人差し指と中指で、フリーなもう1本を動かす。
判り易い表現も多く、参考にさせて頂くに十分な資料の一つだと思います。
ただ、内容自体は一般論なのでは?と思いました。

お箸を上手く使えず悩んでいるひとは、

例えば、固定する箸の薬指ですが、
第1関節の少し手前なのか、真上なのか、少し後ろなのか
第1関節、第2関節を、どの程度角度をつけて曲げるのか など

指の1本1本の細かい挙動を知りたいのだと思います。

しかし、そもそも指の長さ、手の大きさ、指同士の比率はひとそれぞれなので
薬指一つとっても、親指の付け根を支点とする下の箸の角度、支点の位置
薬指の第1第2関節の角度も変わってくると思います。

獲得形質という言葉があるそうですが、あるとすればこういった指のバランスが
お箸を持つのに向いていない比率の人の事も、指すのであろうかと思いました。

とはいえ、参考になりました。お礼申し上げます。


最後におせっかいを承知で。

アクロバティックな能力があり、極めて器用であるからだ。
私にはとても真似できない技である。
卑下する必要はない。

このような逆説的な言い方は、せっかく参考にしたい、
と思う人の心を挫く気がしますが、如何でしょう?
せめて、決め付けの語尾を変えるだけでかなり印象は変わると思うのですが。
by 通りすがりの者ですが。 (2006-11-07 08:39) 

通りすがりの者ですが。

今気づきましたが、
ハンドル名の”通りすがりの者ですが。”というのは
リンク元の方とは関係ありません。似ていますけれど^^;
あちらにはコメントはなさらない様、お願い致します。
by 通りすがりの者ですが。 (2006-11-07 08:48) 

ask

>せめて、決め付けの語尾を変えるだけでかなり印象は変わると思う
そうですね、確かに。ご指摘ありがとうございます。
「卑下する必要は無く、簡単にマスターできると保証します」
とでも書いた方が良かったですね。
ただ、「である」調で書いてるので、ここだけ「ですます」にするのはちょっと違和感があるかな?
それと、具体的な微妙な指の配置などがわかりにくい、というご指摘ももっともです。
図解も入れればより完璧になるかなぁ?
by ask (2006-11-07 22:58) 

通りすがりの者ですが。

わざわざご返答、ありがとう御座います。

お箸の正しい持ち方”ですが、
お気が向いた時でよろしいのでは無いのでしょうか^^
現状でも十分意味はあると思いますし、お忙しいと存じますので。

蛇足になりますが、
悪気はお持ちでは無いと思うのですが
卑下する必要は無く”という言葉は、
卑下していない相手にはなかなか強烈なインパクトを持ちますので
余り啓蒙等には使われない方が良いのではないのでしょうか。
(喧嘩の売り文句としては満点ですけれど^^;)

以上、色々申し上げて失礼いたしました。m(__)m
by 通りすがりの者ですが。 (2006-11-08 08:37) 

ask

>卑下していない相手にはなかなか強烈なインパクトを持ちます
またまたのご指摘、痛み入ります。
なるほど、「卑下」という言葉は禁句なんでしょうね。この言葉を使った時点で、
(たとえ「必要ない」という否定文の中であろうと)、反感を買うであろう、
というのには迂闊にも気がつきませんでした。私自身の傲慢さの現れかも。
それでは啓蒙なんて出来るわけがないですね。
参りました。
by ask (2006-11-08 11:18) 

lagu_sowelu

こんばんわ♪
どうにか、読みましたよ。でも、3次元の話が苦手なので・・・
よく読まれている記事なんですね~
by lagu_sowelu (2007-11-05 02:02) 

ask

lagu_soweluさん、いらっしゃい!
>どうにか、読みましたよ。でも、3次元の話が苦手なので・・
うーん、イマイチでしたか。
確かに以前にも「指の微妙な配置がわからない」という指摘がありまして、そこが弱点ですね。
なんか読みにくいものを無理に読ませたみたいで、ごめんなさい。
by ask (2007-11-05 07:30) 

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