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「ジニのパズル」(崔 実) [小説]

いわゆる「文芸誌」などというものはまず買わないのだが、例外的に買ったのは、毎日新聞(5/8)の書評面の〈雑誌紹介〉ベタ記事コーナーに載った新人賞受賞作の紹介文↓に心惹かれたためだ。

>青山七恵、高橋源一郎、多和田葉子、辻原登、野崎歓という、作品傾向や嗜好も違う五人の選考委員がこぞって絶賛している…
>日本生まれの在日韓国人の少女ジニは、日本学校から朝鮮学校に転校、『ブッシュ大統領がイラク派兵』をしている頃、ハワイ、そしてオレゴンへと「たらい回し」にされる。この少女の反逆と再生の物語にとりわけ熱い高評価を与えている辻原は、ジニを『罪と罰』のソーニャ、伝説のアーサー王、ハックルベリーらになぞらえながら読み解く。選評だけでも大変な読み応えだ。

というわけで、この小説が全文掲載されているこの雑誌を買いに走ったのだった。

群像 2016年 06 月号 [雑誌]

群像 2016年 06 月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/05/07
  • メディア: 雑誌


 私は「在日文学」は殆ど読まない人間なのだが(記憶に鮮明にあるのは梁石日の「血と骨」くらいしかない。「GO」もツン読のまま)、この評、その褒められっぷりが尋常ではなく、超大型新人登場といった興奮が感じられ、在日の特殊性を超えた普遍性があるのではないかと思ったのだ(結果的には「在日的問題性」は強かったのだが)。

  なるほど、熱さと激しさを持った小説だった。文章に力と勢いが漲っている。ただ、アメリカのオレゴンでのホームステイ状態という『今』の時期から入っていって、半ば近くから時間軸をさかのぼって日本での朝鮮学校での出来事が語られる、という構成はちょっと難があって、入って行きにくいのではないか? 「ハワイ」での状況は全く出てこないのでこれもわかりにくい。

 日本の普通の小学校から中学進学時に朝鮮学校(十条にある)への転校。言葉が全くわからないという逆境で、いじめやら不適応やらがあり、警官による暴行被害、さらに北朝鮮のテポドン発射に伴う騒動や、教室に飾られた金日成・金正日の肖像画破棄事件と緊迫感に満ちた展開が続く。表現力、描写力は抜群。

 タイトルの中の「パズル」という言葉は、主人公が直面する社会と心の問題、差別や民族、命とプライド、政治や大人の愚劣さ、などなどの複雑に入り組んだ、そして解かれるべき課題としての状況を指しているのだろうか?
 自然に触発される彼女の豊かな感受性と、冒険的な行動力から成長へと至る予兆が示されており、読後感は良い。
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