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「下読み男子と投稿女子―優しい空が見た、内気な海の話。」(野村 美月) [小説]

♪ラノベのようでラノベでない、ベンベン
ラノベの下読み作業、さらにはそれを突破するための新作ラノベの書き方を描いたラノベ、何を言ってるのかわからねーと思うが、つまり《メタラノベ》。

下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。 (ファミ通文庫)

下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。 (ファミ通文庫)

  • 作者: 野村 美月
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/エンターブレイン
  • 発売日: 2015/06/29
  • メディア: 文庫


 この作家の作品は初めてではなく、「文学少女と死にたがりの道化」という割とヒットしたらしいのを読んだことがあるのだが、内容はまっっっっっったく憶えていない(もしかしたら途中で止めたのかもしれないがそれすらも憶えていない)。つまりツマらなかったのだが、そんな作家の作品をなんでまた今回読んだのか?

 年末の新聞にその年の様々な分野を回顧してベスト作品を扱う記事が載るが、何新聞か忘れたが、「サブカル」つまりラノベ関連のベスト3記事があり(筆者は某大学教授?)、「りゅうおうのおしごと!」(白鳥士郎著・GA文庫)、「異世界食堂」(犬塚惇平著・ヒーロー文庫)の二つに並んでこの作品が挙げられていたのを見たからだ。「りゅうおう…」は図書館に予約中、「異世界食堂」の方は(料理に関する言葉関連で表現が面白いとも評されており、傍線を引きたくなる箇所が多いような予感がして)、購入してある(未読orz)。

 で、その評記事の中で、この作品は「ラノベの作り方の良い指南書にもなっている」というような意味のことが書いてあったと(うろ覚え)。つまり、「ラノベ版文章読本」らしいのだ。なので読もうと思ったのだが、そもそもラノベにはあまり興味のない私がふ、文章読本だからって、なぜ手を出さねばいけないのか? それだったら、真正面の直球本の「ラノベの書き方」的なたくさんある本を読めばいいのに、だ。…まぁとにかく、ベスト3くらいには目を通しておいてもいいか、程度の軽い気持ちで。

 設定はかなり強引である。中学2年から新人賞応募作品の下読みのバイトを始めて今高2の主人公、風谷青。ラノベが大好きで、応募作の未完成なところ、ダメなところ、あらゆる欠点を含めてまるごと楽しんでしまえるという稀有な?才能の持ち主という設定(ここからしてかなりのご都合だと思う)。
 それが学校随一の美人女子高生のクラスメート氷ノ宮氷雪が実は大のラノベ好きで自作を投稿しているのに出くわし…。という展開もまたご都合主義そのもの(例のツンデレってやつだし)である。まぁこの小説の目的は、ラノベの書き方を具体例をもって論じることであるので、こういう〈方法としてのご都合主義〉は何の問題もない。喩え話みたいなものだから。

 彼が彼女の創作を指導することになり、ストーリーの建て方とか、表現の洗練などを教える様子が、具体的なその応募作をどう作りこんでいくかという過程を克明に描くことによって開陳されていく。なかなか面白い。

 一方、この作品の大きな要素が二人の間の恋愛感情だ。これは実は余分としか言い様がないのだが、ウェイト的にはかなりの大きさになってしまい(別に恋愛小説を読もうと思って読んだわけじゃないし、ついこの前に「君の膵臓を食…」(前記事)で、同じような高校生同士のピュアな恋物語を読んだばっかしだし)、ちょっと目的外成分が多すぎた。作者の好みから、こういう要素は抜きようがないのだろうけれど。ま、不自然さはあるものの食傷するようなものではなかった。

 という訳で、〈ラノベ愛〉にあふれた作品である。野村氏はいわば自分の創作者としての「手の内を明かし」てしまったわけだが、その裏には「そう簡単に真似できる筈のものではない」という自信もあるのだろう。
 ただ、あくまでもこの作者の持っている技法に従って展開しているわけで、書き方にはそれぞれの作家ごとの違い、個人差は相当あるはずなので、これですっぱり清明になった、というものでもない。にしてもラノベ作家を目指す人(一体何万人いるのやら?)には必読だろうね。
(それにしても似た内容の漫画「バクマン。」を連想してしまうことしきりではあった。ちなみにこの作品がもたらす脳内映像は、実写であってアニメではなかった)
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