SSブログ

「昭和の犬」(姫野 カオルコ) [小説]

2014年1月、第150回直木賞を受賞した作品。御多分にもれず、図書館に予約(昨年6月末)したときの順位が168位。蔵書が9冊あったので、ほぼ10ヵ月待ってやっと借りられた。
昭和の犬

昭和の犬

  • 作者: 姫野 カオルコ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2013/09/12
  • メディア: 単行本


「ツ、イ、ラ、ク」、「リアル・シンデレラ」「よるねこ」に続き、姫野カオルコので読むのはこれで4冊目。

 それにしても一作ごとにガラリとテーマ・作風が変わる。その一方で、貫徹されるものがある。選者の浅田次郎氏の評、
「…個性を失わないまま、迎合しない状態で、すばらしいまとまりを示した。…デビュー以来、ご自分の世界というものを真っすぐ書いていた孤高の作家」
で示されるオリジナリティだろう。

 以前読んだ「ソウルメイト」(馳 星周)みたいな、犬とヒトとの交流をストレートど真ん中に描いた小説とはどうも違う。勿論、そういう交流の要素も無くはなく、昭和33年生まれの主人公イクの幼児期から50歳近くなるまでの半生の間に多くの犬が登場し、心の深い部分のレベルでも係るのだけれど、主たるテーマは〈家族関係〉(その異常さ)である。

 シベリア抑留後、昭和30年に帰国した父、その過酷な体験からか異常に厳しくヒステリックな性格(猛犬がひれ伏すという奇術のような展開付き)。初めから冷えきっていた夫婦関係。家庭の温かみを知らず、そこから脱出することのみを願って成長していくイク。かなり極端な設定だ。

 各章のタイトルに、「ララミー牧場」「逃亡者」「宇宙家族ロビンソン」「インベーダー」「鬼警部アイアンサイド」などなど、当時一世を風靡した懐かしいアメリカ製TVドラマの名が付けられている。それぞれの時代の指標的な使い方としてはあまり明確でもなく(リアルタイムでこれらの番組をよく観ていた私にはおおよその時期はわかるが)、文中にもその番組に関する言及はあまり無い。その類のドラマの消長や流行歌の衰退、テレビの個室化などの文化的変転も言及される。

 小説全体のタイトルに「昭和の…」と年号が入っているのは、小説としては珍しいような気がするが、テーマは表層的には上述の〈家族〉だが、さらにそれを含みこんでいる昭和(戦後以降)という〈時代〉そのものの雰囲気、大衆の生活の移り変わり、こそが真のテーマだろう。

 それを総括的に述べた部分がある。
>自分はいい時代に生まれたと思う。昭和という時代には暗黒の時期があったのに、日当たりよく溌剌とした時期を、子供として過ごした。ましてその昭和最良の時期にも翳りの部分はあったのに、その時期に子どもでいることで翳りは知らず、最良の時期の最良の部分だけを、たらふく食べた。…正義と平和を、心から肌から信じられた。未来は希望と同意だった。

 ここに、〈戦前に入っていく今〉への慄きを見ることも可能なのではないか?
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

鳥獣戯画展術後CTの結果 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。