SSブログ

「黙示録――イメージの源泉」(岡田 温司) [ノンフィクション]

 私はキリスト教には疎い人生をおくっては来たが、「黙示録」なるものの存在は若い頃から勿論知ってはいた。(初めてこの3文字の文字列を目にしたのは「赤毛のアン」の最終章に近い辺りだったか?)

黙示録――イメージの源泉 (岩波新書)

黙示録――イメージの源泉 (岩波新書)

  • 作者: 岡田 温司
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/02/21
  • メディア: 新書


 「聖書」と言えば、新約より旧約の方、特に「創世記」の冒頭部分、天地創造からエデンの園、原罪、追放、ノアの方舟、バベルの塔あたりの話(と出エジプト記)のファンタジー的な面白さには映画などで慣れ親しんだ…という、ごくありきたりの〈教養〉しかない人間だ。

 「黙示録」含めて新約聖書は読んだことが無いわけだが、それにインスパイアされた作品は枚挙に暇がない。映画、終末・人類絶滅もののSF、漫画(特に「デビルマン」)……。その程度の言わば〈異教徒〉レベルでの関りしかなかったわけだが、それですらこれほど多くの言説/表象に接しているのだから、キリスト教社会である欧米での黙示録の存在感はハンパなかっただろうとは容易に推測できる。

 若い頃読んだ大江健三郎の文章の中にも「現代は黙示録的状況にある」というような記述があった。大江は聖書は(文学作品として)よく読むと言っていて、日本人としては例外的だろうけれど。

 本書はその「黙示録」の成立とその内容について、文献学的・書誌学的に詳しく洗い出したものである。(特に図版史料について詳しく調べており、若干冗長、トリビアすぎるきらいはある)
 その一方でオカルト的スピリチュアル的な読みはしないとキッパリ断言しており、学者としての矜持が見える。 (なので、ちょっと期待した「チェルノブイリ(=ニガヨモギ)」の記述関連の情報は無かった)

 それにしても黙示録の描写の凄まじさは尋常ではない。

「このテクスト(黙示録)は全体にわたって、抵抗と服従、革命と反動、憧れと恐れ、死と再生、創造と破壊という、相反するベクトルが互いに引き合う力を発揮している……これが二千年間にわたってあらゆる人々を〈解釈〉行為に走らせた」(82P)と。

 そして「黙示録」解釈の方法として、三つの読み方があると提示する(83P)。
①歴史主義的な読み……テクストに暗示的に語られている事柄を、それが書かれた時代の実際の事件や状況に対応させるという方法。
②終末論的な読み……解釈者や注釈者それぞれの時代の状況に照らし合わせて読み取る方向。つねに「現代」を読み解くためのコードとして。付随して未来への期待と不安も生まれる。かつても現在も一番力を持っているし、歴史にフィードバックを及ぼした読み方。
③寓意的な読み」……特定の時間や歴史の枠組みを超えて、普遍的なテーマ(善と悪、神とサタン、平和と暴力、魂の遍歴、など)をそこから導き出そうとする。


 新約の最後に唐突に付加されているのではなく、そもそもの淵源は旧約の「ダニエル書」「イザヤ書」「エゼキエル書」等に既に現れており、そういうコンテクストの中で成立したテクストであることも示される。

 一神教の持つ直線的時間歴史観(創世があればやがて終末も来る?)による必然的な論理展開なのだろうか?
 民族や教徒の歴史的苦難という具体的な経験がその成立背景に大いに関わっているという印象はある。あと砂漠の宗教たる一神教の厳しさ、も。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。