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「想像ラジオ」(いとう せいこう) [小説]

 いとうせいこうの作品を読むのは(多分)初めて。芥川賞候補にもなったり、話題になったのは以前から知っていたが、図書館の順番待ちのため読むのが遅れた。

想像ラジオ

想像ラジオ

  • 作者: いとう せいこう
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2013/03/02
  • メディア: ハードカバー


 3·11東日本大震災の津波で流され杉の木のてっぺんに仰向けにひっかかった人物が主人公。最初は自分が死んでいることもわからぬまま(テレパシーで?)ラジオ放送を始める。DJアークと名乗って、という非常に突飛な設定だが、ぐいぐい引きこむ力がある。
 この作品に流れているのは、死と生のあわいにある大きな悲しみ、悼みだ。

 「放送」は多くの人に届く。受け取る人たちも死者である。(生者でも感応する人も居るらしい。)饒舌に語る心境や思い出話、それに多くのリスナーが「メール」やら「同時多中継」で反応を寄せる。ある者は自分の状況、津波に巻かれた様子を詳しく述べたり、リアルタイムで会話したりする。
 その展開はリスナーとの交流を経て、やがて「成仏」へと至るように思えた。

 死者を忘れない、死者を抱きしめ、死者からも抱きしめられて生きていく、という態度・生き方の宣言のようだ。

 あの大災害の死者を悼むのに、このような独創的な手法を採って、「想像力」を強く惹起・援用しようとする文学作品。切々と迫ってくる。

 と同時に、あの災害で亡くなった人を直接誰も知らない自分、データ的にしか受け止めていなかった自分にとって、どう捉えればいいのか、実際あれ以降世界は変わってしまっているわけで無関係と突き放すことは出来ず、今後どのように生きていくのか?を問いかけてくる作品でもあった。
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