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「透光の樹」(高樹 のぶ子) [小説]

髙樹のぶ子の小説を読むのは初めてだ。ずっと前からよく目にはしていたし、芥川賞(1984)受賞作の「光抱く友よ」は、そのタイトルと女性同士の友情を描いたというところに興味を抱いて、いつか読もうと思い続けて30年も経ってしまっていまだに読んでいないのだった。

 この作品にしたって、発表されたのは1998年、単行本化は1999年と、もう随分古い(描かれる時代は1981年からの2年間)。ちなみに秋吉久美子&永島敏行で映画化されたのが2004年(未見)。そんな本をなぜ今頃読んだかというと、単に図書館の書架で「目が合った」からに過ぎない。

透光の樹

透光の樹

  • 作者: 高樹 のぶ子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1999/01
  • メディア: 単行本

(基本図書館へは借りた本の返却と予約した本の受け取りしかしないのだが、予約本が入っていない時は手ぶらで帰るよりはと、開架書架にある本からなにか適当に見繕って何冊か借りて帰るのである。そんなふうに手に取った一冊だった。)

 いやしかし、驚いた。文体はやや硬いが、中年男女の出会い、恋愛、そして永訣を描いている。実に上手い。やはり(前にも書いたが)恋愛小説は女流作家に限る。

 恋愛導入部の互いに相手に惹かれつつ探りあい、懊悩し惑乱する、その心理描写の細やかさと言ったらない。なんで男の心理までもがこうも分かるのだ?というくらい自然であり、的確に見える。
 もっとも、人の心のありようなどは人それぞれで千差万別なので、《そういう考え方をする人》という設定で、必然性とか整合性とかを云々されるものではないから、いちいち矛盾とか疑問とかは感じる必要もない、ということはあるだろう。これは往々にして「ご都合主義」に陥るのだが、この作品では展開を通して不自然さや違和感はなく、うまく《真実》が描かれているという点である種の説得力を持つのではないか?

 性愛描写がまた濃厚であり、そこに至る過程の心理描写の深さと相俟って、この世のものとも思えないほどの法悦境に達する様は、そんな経験など持ち得なかった私orzから見たら殆どファンタジーの世界にすら思えてくる、この羨ましさ(笑)。
 結末は悲劇的なのだが、これだけの性の至高・究極を叶えた二人は至福の生(性)と愛に生きたと言えるだろう。一種ハッピーエンド。なかなかよい読書体験だった。

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