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「テキスト9」(小野寺 整) [SF]

第1回ハヤカワSFコンテストの最終候補作。受賞作は最近読んだ「みずは無間」、本作は二席で、接戦だったようだ。受賞作は当然として、二席作が刊行されるのは異例なのではないか? それだけ評価が高かったということだろう。確かに読み応えはあった。

テキスト9 (Jコレクション)

テキスト9 (Jコレクション)

  • 作者: 小野寺 整
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/01/24
  • メディア: 単行本


 事前に得た僅かな情報で、これは傍線やメモを書き込みながら読んだほうが良い作品のような印象(つまり、かなりややこしい、と)があったので、図書館で借りずに買って読んだ。
 ちなみに私は〈傍線引きマニア〉で、やたらと線を引く(場合によってはページ全部に!)のだが、今回のこの本もかなり「朱に染まった」。最近図書館で借りて読んでばかりいるので、たまにこういう《私本来の読書法》が出来るのは楽しい。

 10億年後の銀河系(及びほかの並行宇宙)が舞台の宇宙SFにして思弁的言語SF、あるいは人類進化SF、もしくは宇宙意志SF。「要約は不可能」と言われているようなので、それに喜んで従って、ここには記さないw。
 レム的かつ円城塔的な世界という要素もある。

 ガジェット的なアイディアのいくつか(全宇宙単一起源文明論、感情操作薬エンパシニック、謎の言葉トーラー、完全言語、囚人船、人格分裂、翻訳による他宇宙ワープ、知性進化系統樹、全人的価値を数値化したスタッシュ)は面白いのだが、基調が言語の、一種「言霊性」とでも言うべき神秘的全能性に依拠しすぎていて、「観念的」な、絵空事世界という印象が強い。つまりSFの最大の魅力にして武器たる《仮説》がもっともらしい理屈を構築することなしに上滑りして展開するので、SFと言うよりファンタジーっぽいのだ。と言うか「おバカSF」か。ま、それなりに楽しめたけれども。

 しかし、10億年後の人類が「インディー・ジョーンズ」だの「刑事コロンボ」だのと喋るのは何なんだ? 途中で長々と「バブリング創世記」やっちゃうし。

 文章作法に揺れがあり(三人称のはずがいつの間にか一人称に変わったり)、まだあまり書き慣れていない新人特有の稚拙さ(いきなり口語体が交じるとか)を感じる部分もあった(いや、意識しての効果を狙ったと言われるかもしれないが)。文体そのものが確固としておらず、全文通して不安定に感じた。つまり完成度は低い。とは言え、作者の熱気、気概は強く感じさせられた。今後の成長が楽しみと思う。

 最後のトリック文、「トーラーの典範(18行)」はなかなかの出来で、メタフィクション的でもあり、言語トリック的仕掛けとして面白かった。
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