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「『いいね!』が社会を破壊する」(楡 周平) [ノンフィクション]

最初はFacebookを批判する本かと思ったが、この「いいね」はIT技術全般による社会構造を変えるインパクトのあるイノベーションのことで「便利でいいね!」という意味であった(とは言え、Facebookにも触れているが)。
 つまり、この本はIT技術がいかに深刻な悪影響を社会に与えているかを説いたものだ。特に新しい知見という訳ではないのだが、問題点を明解に整理して警鐘を鳴らす、その姿勢には共感できる。

「いいね!」が社会を破壊する (新潮新書)

「いいね!」が社会を破壊する (新潮新書)

  • 作者: 楡 周平
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/10/17
  • メディア: 単行本


 やや長くなるが、内容の概要をまとめると…。
 コダックと言う超優良企業(1ドルの売り上げの70セントが利益)がデジタルカメラの普及で凋落する。同様にAmazonで書店が潰れていく。プラットフォームを握ることが勝つことである。電子自己出版の可能性が大になってきている。海賊版問題は防止不可能。
 「すばやく動き既存のシステムを破壊せよ(ザッカーバーグ)」。イノベーションはかつて雇用を生み社会を豊かにしたが、今や雇用破壊と少数の富者を生む。イノベーションで急速に様々な雇用が失われた。この大波がもたらす巨大な変化、経済活動への影響の深甚さ。
 仕事に合わせてシステムを組むよりも、パッケージ管理ソフトを使ってそれに仕事を合わせるようになった。
 総合スーパー(GMS)が1個できると5,000人の雇用が失われる。いずれ地域が衰退し撤退する羽目になり小売店は無くなったままとなる。
 大手量販店がショールーム化し現物はアマゾンで買うという消費行動が定着する。対抗してGMSも即日配送をやろうとするとべらぼうなコストがかかる。
 工程から人を極限まで排除し人件費を削った。正社員は不要、パートで十分な体制。雇用排除でモノは安くなる。〈無駄な部分〉がかつては雇用を支えていた。
 スマホの中毒性、メールの膨大さ。あらゆる機能を盛り込める。LINEが個人情報を奪い尽くす。ビックデータが蓄積される。
 Facebookの集める個人情報の多さ、データを溜められたあげく抜けられなくなる。悪い方向へ行く危険がある。
 Facebookは「顔データベース」を構築しようとしている。プライバシーの危機である。Googleの個人情報蓄積も凄い、国家機関に渡されてしまう可能性。
 時代の転変の激しさ、リストラ常態化、終身雇用の崩壊。若い世代が確たる将来像を持てず、守りに入り消費を控える。これは社会、国家の崩壊につながる。住宅ローンを払い続けられる保証は無い。さらに子育てのリスク・コスト、これが少子化につながる。医学の進歩は高齢化を促進する。→財政悪化。
 学力低下の問題もある。大学が多すぎて、オンライン就活の無意味化、エントリーシート枚数の激増。3年で辞めてしまう状況が現在の採用法の欠陥を表す。
 結論として見通しはとても暗い。
 「ドグマを破れ」と言ったジョブズの生み出した製品が、いまや新たなドグマとなっている。


 うーむ、確かにこれは容易ならざる事態である、という印象を改めて感じた。
 普段様々なインターネットサービスの利便さを享受して、技術そのものは没価値的であり、「ネット依存」や「集合痴」「ネットいじめ」「サイバー犯罪」などの負の側面(その一例は「ネット・バカ」参照)は別として、イノベーションは基本的に歓迎すべき人類文明の進歩であると単純に捉えがちだが、どうしてどうして、社会、産業、生活そのものの大きな歴史的な流れの中で、(早く進み過ぎる技術として、受容と対応が追いつかない)特殊な〈跛行的〉な歪みを与えてしまう、一種の「暴走」的な自己展開を呈しているのではないか?と。
 はてさて、どうしたものか?
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