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「スタッキング可能」(松田 青子) [小説]

短篇集。なんとも奇妙な小説群である。いや、小説と言えるのか疑問だ。普通の小説の体をなしていない。さしてストーリーもなく、主人公のキャラ設定も希薄。よく言えば実験小説か?

スタッキング可能

スタッキング可能

  • 作者: 松田 青子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2013/01/18
  • メディア: 単行本


「スタッキング可能」
 オフィスで働く人々の群像。その誰もが不適応症状にあり、自分を見失っている。各人の心の動きとそこに入り込む妄想の類の羅列が続く。病的だ。スタッキングとは積み重ねられる椅子のことで、そのように交換可能な個性のない無味乾燥な人格のことを指しているらしい。
 仕事の無意味さ・同僚との不調和・内心と表面、社交的外面と内面との齟齬乖離・他者から見たみかけとのズレ…。
 人称は「D田」とか「C村」とか記号的に記され、顔がない。カフカ的な世界の気味悪さが延々と続く。

「ウォータープルーフ嘘ばっかり」
 2人の中年女性の対話で、化粧品(マスカラなど耐水性を売りにした商品)や衣料店の〈阿漕さ〉に対する不信感、罵詈雑言が並べ立てられる。女性特有の、半径5mの世界観、その視線のいやらしさが露骨に出ている。

「マーガレットは植える」
 ありとあらゆる品物、さらには「恐怖」までをも「植える」女性。わかりにくいが、多分こだわり・関与という〈意識〉の問題なのだろう。職業生活への不適応と自閉のおぞましさか?

「ウォータープルーフ嘘ばっかり」
 同じ題名の続編。こういうのあり? 今度は一転してヒートテックへの礼賛。なんのこっちゃ?ステマか、と思ってしまった。(ちなみにヒートテックは登山には向かないらしいとTwitterで知ったが、。水気がこもって低体温になるとか)

「もうすぐ結婚する女」
 という名前でしか呼ばない相手との交流の記憶。高層階恐怖症の女が語るが、進むに連れて語り手が同級生、妹、親、結婚相手と変わる。あれ?いつの間に、と境界が不分明でめまいを起こさせる。通底して流れる自閉的な、世界との不協和感。やはりカフカ的で辻褄の合わなさがある。一方でふわふわとしてもいる。

「ウォータープルーフ嘘ばっかりじゃない」
 さらに続編だが、今度は題名をひねってある。訳の分からない演説でマスカラ容器の透明化を主張する。
 しかし、いきなり広瀬香美disが始まり驚いた。懐かしい名前だ(遠い目)。唐突に付け加えられる、縁結び神社でのお祈りの自己紹介的長広舌には笑った。

 総じて饒舌で言葉の上滑りオンパレードという印象。気持ち悪いが、妙に心をざわつかせられて一種の快感めいたものがなくもない、まことにヘンな作品だった。
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