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「空白を満たしなさい」(平野 啓一郎) [小説]

「ドーン」以来3年ぶりに読む平野氏の作品(4冊目)。漫画誌「モーニング」に1年間連載されていた。

空白を満たしなさい

空白を満たしなさい

  • 作者: 平野 啓一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/11/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




 設定がかなり突飛だ。死者がいきなり蘇る(復生者)現象が世界中に多発するようになるという、トンデモな状況。主人公はその一人。「自殺」したとされるその死因の追究、内面の葛藤・苦悩、仕事や家族・友人との関係が描かれる。

 それにしても、こんな途轍もない現象を持ち出すにしては、その原因・機序に関する追究の要素が殆ど全くないのが、やはり普通のファンタジーやSFと違う。関心の対象はあくまでも個人の心の動き、人生や愛、幸福についての考察であって、超自然現象もそれを展開するための小道具にすぎないのだった。社会的な影響についても少しは触れられてはいるけれど。やはりこれは「純文学」の作品だ。

 分人(ディヴィジュアリズム)というのは「ドーン」にも出て来た概念だが、それがより一層前面に出てきている。そもそも、ヒトは対人関係のバリエーション(親、子供、配偶者、上司、同僚、部下、友人など)に応じて、その時時にふさわしくその態度や言動を変えている、という当たり前のことを〈分人〉と呼んでいるのだが、それをあたかも一種の人格の複合のように捉えるのはいささか行き過ぎの感がする。それを言うなら対人関係だけでなく、趣味に没入している時、仕事中、入浴時、食事時、などのシチュエーションによっても〈分人〉化は発生するのではないか?あるいは同じ相手に対しても、怒っている時、和んでいる時では別になったりしないのか? それらを含めて人格は統合されているものであって、一体そういう弁別に意味があるのか?と疑問に思った。

 ストーリーは、人間の生、命の困難さと不条理の上に開ける〈一回性の掛け替えの無さ〉への覚醒に収斂していく。これには全く同意するのだが、小説としては、語り口や文体などにやや生硬な印象が残った。文章は平易なのだがやや格調に欠ける。発表媒体の読者層を配慮してのことか? この著者の筆力はこんなものではない筈だ。
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