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「ことり」(小川 洋子) [小説]

「猫を抱いて象と泳ぐ」以来の小川洋子作品。これもまた同様のムード、静謐な空気が満ちている。設定も似たような、ちょっと、いやかなり変わった珍しい人物造形が共通している。と言うか、彼女の作品は大体みんなこんな調子なのか。

ことり

ことり

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/11/07
  • メディア: 単行本



 兄の影響で小鳥を愛し、その鳴き声や仕草に魅せられた男の一生。この兄というのが特に「変種」的で、思春期頃に人間の言葉を失い、独自の鳥の言葉(ポーポー語)だけを話し聴くようになる、という今まで聞いたこともない設定なのだが、精神病のたぐいでもないし、かなり突飛なのでやや理解に苦しむ。全くの創作なのだろうが。
 知能や感情、行動にも一切障害はないのだが、言葉がこうなっては社会生活はできず、弟である主人公が一切の面倒を見ることになり、二人だけの生活が淡々と描かれ、特にさしたる事件も起こらず、40年以上続く。兄とともに近くの幼稚園の鳥小屋の鳥たちと親しみ、兄の死後は掃除や世話を買って出る。兄ほど鳥は理解できないものの。
 世間とは殆ど交流せず、ある会社の接待用の屋敷の管理人として暮らす。ひたひたと繰り返される静かな生活。なんという充足感と安らぎの日常(むしろ一種の非日常)。
 小川洋子の作品世界は、人間の社会性や政治性といったドロドロしたものが希薄な世捨て人的なもので、極端な類型だが、でもそこに人間の実存の真実の側面に対する鋭い洞察を感じさせる。〈自然〉とか、〈生命〉、〈永遠〉、〈超越〉、〈無垢〉などのキーワードが浮かぶ。悲劇でも喜劇でもない「平常」なる世界、凡庸さの中の高貴さ。豊穣な読書体験だった。
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