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「本にだって雄と雌があります」(小田 雅久仁) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

第3回Twitter文学賞(国内)で堂々の第1位。「SFが読みたい2013年版」では第7位。大森望氏が某TV書評番組で昨年度の本のベストワンにあげていた(そのくせ、「本の雑誌」1月号の「新刊めったくたガイド」の中では国内SFの第3位というのが〈?〉だが)。相手の北上次郎氏は「途中で読むのやめた」と言ってたような…もったいない!愛書家向けの小説なのに! Twitter文学賞はその大森氏が噛んでいるのでベストになったような気がしないでもない(投票カウントに不正があったというわけではなく、投票した人の傾向として)のだが。

本にだって雄と雌があります

本にだって雄と雌があります

  • 作者: 小田 雅久仁
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/10/22
  • メディア: 単行本



 それはそうとこの小説、とにかく面白い!読書家・愛書家・蔵書家さんは必読。
 本が果てしなく増えていく、という愛書家共通の悩みをよく表すジョークに、「本が勝手に増える。買ってもいないのに、自然に生まれたとしか…」というのがあるようなのだが(私自身は使ったことはない)、あろうことかそれを実際に設定として用いる(雄雌の性別のある本が本棚で隣り合うことで交合して「幻書」が生まれる)という前代未聞のアイディア作品である。ああとんでもない。
 ※「エンデの「はてしない物語」とサルトルの「壁・嘔吐」の間に「はてしなく壁に嘔吐する物語」が生まれた、とか。
 しかし、この設定、それだけでは〈勝利〉にはつながらない。料理の仕方が難しい。下手すればつまらんショートショートにしかならない。生まれるだけではなく、空を飛び回るという特性を与えることで、ダイナミックな行動を行わせ、背景の架空世界の存在に持っていく。それをある読書家一家の百年以上に及ぶ系譜のディテールを描くマジックリアリズム手法で壮大なファンタジーに仕立てている。語り手が息子(まだ成長していない)に語る一族の歴史に深くかかわるこの「幻書」をめぐるストーリーは、構成が入り組んでおり、多くの奇矯な登場人物が書いた文献(幻書も含む)が錯綜し、かつ時代も行きつ戻りつして進行する。文体もそれぞれにふさわしく変え、あるときはペダンチックに、あるときは漫談調に、またあるときは戦争の地獄絵図を、さらには夢のようなファンタジー情景描写をと、変幻自在の饒舌な小説世界が現出する。作者の手練ぶりは凄い。
 そして貫くのは家族愛と読書愛。これがあってこそ、本好きの読者の琴線に触れる作品となっている。

 結末でF・ブラウンの短編「ユーディの原理」(「天使と宇宙船」所収)を想い起こされた。してやられた感あり。
 おすすめです。

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コメント 3

duznamak

ハンガーが減って自転車が増える小説を彷彿とさせる設定ですね。面白そうです。勢いでAmazonの購入ボタンをクリックしてしまいました。
by duznamak (2013-03-07 23:03) 

ask

>ハンガーが減って自転車が増える小説

えっ!何それ知らない。

それにしてもお久しぶりですね。
今確認しに行ったら、duznamakさんのブログ更新を昨年10月以降見落としていたみたいで、どーなっちゃったのかしら?と少し気になってました。
Facebookの方には頻繁に書いてるんですか?
by ask (2013-03-07 23:56) 

duznamak

 購入しました。まだ読んでないけど。

> ハンガーが減って自転車が増える小説

 「あるいは牡蠣で・・・」です。

 実はFacebookでも、あまり書けていません。内容も、ブログ冒頭の一言ネタだけを切り取った感じなので、薄っぺらいです。書くべきネタはあるはずなんですけど、何故か書くテンションになれません。
by duznamak (2013-03-18 18:41) 

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