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「つぎはぎだらけの脳と心―脳の進化は、いかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?」( デイビッド・J. リンデン) [サイエンス]

以前書いた「脳にいい本だけを読みなさい!― 「脳の本」数千冊の結論 」の中で「最も良い脳本」と紹介されていて、(「これは読まずばなるまい」)是非読もうと思っていた本である。2009年9月刊とちょっと古いのだが、図書館で予約したらすぐに借りることが出来た。なるほど、しっかりした科学解説書だ。

つぎはぎだらけの脳と心―脳の進化は、いかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?

つぎはぎだらけの脳と心―脳の進化は、いかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?

  • 作者: デイビッド・J. リンデン
  • 出版社/メーカー: インターシフト
  • 発売日: 2009/09
  • メディア: 単行本



タイトルがこの本に一貫して流れる見解を簡潔に表現している。


322ページにこの本の要約が載っている。(非常に親切だ)
それによると(以下コピペ)
[脳の設計の進化上の制約]
1.脳をゼロから設計し直すことはできない。必ず既存のものに新たな部分を付け加える、という方法を採らなくてはならない。
2.脳にいったん持たせてしまった機能を「オフ」にするのは非常に難しい。たとえその機能が負の効果をもたらすような状況でも、なかなか「オフ」にはできない。
3、脳の基本をなすプロセッサであるニューロンは処理速度が遅<、信頼性も低く、信号の周波数帯域も狭い。


これが出発点であり、繰り返し強調される。↓
> 中脳の視覚システムの存在は現在の私達の脳が、確たる方針もなく場当たり的に古いものに新しいものが追加されてできたものであることを示す格好の証拠ともいえる。
 進化を遂げるにつれて新たに積み上げられ、新しく高度な機能が加えられても脳全体の設計な頭脳から見直されることにはならない。単に新しい部分が上に積み重なるだけのことだ。中脳は過去の脳の名残のようなものである。
>脳はいうなれば「最善と言うより次善」「とりあえずはこうするのが簡単だから」と言う作り方をされているのだ。


 これで思い出したのが、だいぶ前に読んだ「人体 失敗の進化史」だ。あの本では、
>脊椎動物の進化は、常に、既存のものを無理やり新たな機能に振り向けるために変形することの繰り返しだ
>全てを既存組織のモデルチェンジでまかなった人体の奇形的な不自然さ

ということ(つまりは〈つぎはぎ〉だらけ)が明解に述べられていて、感心した記憶がある。今回読んだこの本はこの古生物学者の見方とよく一致している。つまり生物学的常識と言えるだろう。

>進化によって生み出された脳という組織の、この異様とも思える作り、非効率のつくりは私たち人間の生活のあらゆることに影響を与えている。
>こんな非効率な仕組みなのに脳が複雑な思考をこなせるのは、多数のニューロンが同時に処理をし連携することによる。脳は非常に性能の悪いプロセッサが多数集まり、相互に協力しあって機能することで驚異的な仕事を成し遂げるコンピューターである。


 以前何かの本で、「ニューロンは極めて高性能で、1個で68000(初代MacintoshのCPU)32bitマイクロプロセッサに匹敵する」なんて記述を読んだ記憶があるのだが、それとはエラい違いである。しかし、この本の「性能が悪いので数で勝負」という方が頷ける。

さらに展開すると、
>●脳に高い処理能力を持たせるには、ネットワークを複雑にし、サイズを大きくしなくてはならない。そのため、誕生時、胎内で十分に成熟してしまうと、産道を通り抜けられなくなる。→人間の子供は、脳が非常に未熟な状 態で生まれて来ざるを得ない。→人間の子供時代は長く、長期にわたり、親からのさまざまな援助を必要とする。
>●500兆のシナプスを持つネットワークはあまりに複雑すぎ、その構造をすべてゲノムで指定することは不可能。→脳内のネットワークの構造の多くの部分が、経験によって決まる。→経験によってニューロンの配線を決める仕組みは、成長後も残り、少し修正されて記憶の蓄積に使われる。[記憶]→記憶を有用なものにするためには、古い記憶と新しい記憶の統合や、感情との関連づけが必要。記憶の統合、定着は、夜間、感覚情報があまり入ってこない睡眠中に行うのが最良。→非論理的で、奇想天外な物語が夢の中で展開される。[夢]


 記憶に関する章は、神経伝達物質の化学的な説明が細かすぎてよくわからない、と言うか、記憶のマクロ的なメカニズムには触れられていない(まぁ現状無理な話だが)。シナプスの化学的挙動に限定なので、不満が残る。しかもこの部分だけやたらに専門的で難解。(飛ばし読みせざるを得なかった)

 さらに最後の章でヒトはなぜ宗教を作ったか?という問に、
>左脳の物語作成機能は常にオンになっており、わずかな知覚、記憶の断片をつなぎあわせて物語を作ろうとする。その物語は夢の中などで、時に超自然的なものになる。これが宗数的観念を生む。[神]
という考察を加えている。なるほどな、と思った。

   ◆

 総じて、相関関係があるからと言って因果関係があるとは断言できない、といった慎重な姿勢には科学的誠実さを感じる。そういう記述は非常に多く、まだまだ未解明なことが多いということがよくわかる。道遠しの感がある。
 欲を言えば、芸術というものについての考察が欲しかった。あと、意識という現象(現実より0.3秒遅いとかの話)についても。知覚の断片の間を脳が補完している、という話はあったのだが…。

 最後のエピローグで「インテリジェントデザイン」説について辛辣な批判を行なっている。今まで見てきたように脳は不完全極まる「悪夢のような存在」であって、神がデザインしたなどとはとても言えないのだ、と。エピローグとは思えない長さで延々と滅多斬りしており、思わず筆が走った、という感じ。あのエセ科学には我慢ならん!といったところか。
タグ:進化
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