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「これはペンです」(円城 塔) [小説]

 円城塔最初の芥川賞候補になった作品。「道化師の蝶」と読む順序が逆になってしまったが。
 例によって、奇矯な印象をもたらす「実験的」な作品。テーマはやはり〈言葉〉、そしてコンピュータ、コミュニケーション。

これはペンです

これはペンです

  • 作者: 円城 塔
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/09/30
  • メディア: 単行本




これはペンです
 謎めいた、実体の不明な〈叔父さん〉との文字だけ(それも暗号化されたり、ヘンな媒体に込められたり)を介したやり取り。その捉えどころの無さに、読んでいて隔靴掻痒の感が強いが、変幻自在な文体は魅力的、やや衒学的ではあるが。
 文章を自動生成するプログラム、さらに文章を分析するプログラム、それらが入れ子になりウロボロスになり、さらに言葉を吐き続ける…。

 安部公房の〈奇妙な味の小説〉に通じるところがあるような。言葉の迷宮という、観念的でありながらかつ情緒的でもある世界が現出している。
 マニアックな(私にはそうとも思えず、慣れ親しんだ言葉が多かったが)技術用語が散りばめられている辺り、特に高齢の選考委員には理解の外であったのだろう。年寄りをいじめちゃいけませんな。

良い夜を持っている
 超記憶力保持という一種の精神疾患症例を抱えた男の息子が綴る、その心の内奥への探索記。死後にその残した記録や医師の話、研究論文などを参照しつつ、想像を絶する膨大な内面世界、夢と記憶と実生活の入れ子になった迷宮構造を探求する。非常に興味深いのだが、精神医学的にどれくらい正しいのかよくわからない。しかしぞくぞくするような面白さがある。一種の怖いもの見たさのような、異形の存在形態の持つ魅力あるいは魔力。そこに人間の精神・心の普遍的な有り様にまでつながるものがかいま見えてくる印象。
タグ:言語遊戯
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