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「狩場(カリヴァ)最悪の航海記」(山口 雅也) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

山口雅也の作品ではだいぶ昔に処女作の「生ける屍の死」を読んだことがあるのだが、内容は綺麗さっぱり忘れている。随分評判の良かったミステリなんだけど。
 今回のこの新作は、書店で見かけ「ガリバー旅行記」のパロディというか二次創作というか、面白そうと思って図書館で借りたもの。前に映画について書いた記事の中でも言ってるように、「ガリバー旅行記」は小学生の頃、ジュブナイル化された抄訳(にしては馬人国まで含む全編収録)を熱中して読み、その後高校時代に角川文庫で全訳を読み、と慣れ親しんだ〈奇書〉なので、それをどう料理しているのか興味があった。

狩場(カリヴァ)最悪の航海記

狩場(カリヴァ)最悪の航海記

  • 作者: 山口 雅也
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/09
  • メディア: 単行本


 いわゆる「後日談」的な作りなのだが、第三部「飛島篇」と第四部「馬人国篇」の間に起こったこととして設定(いや実のところ、「馬人国」であそこまで厭世的、人間嫌いになったら、世捨て人になるしか無くて、もうそれ以上の展開は望めないだろうし)され、しかも舞台は日本である。原作の中でも日本への渡航は描かれており、あの小説の中で唯一実在する国が舞台となっていて、いかにその当時の日本が「異郷」であったかが伺えるわけだが、それを日本人が描くとどうなるか的な要素も面白い。
 将軍綱吉の側用人(というのは柳沢吉保たった一人しか居ないのかと思ってたら、集団組織だったのか)狩場蟲斎(かりばちゅうさい)という類まれな傑出した人物との出会いがあり、殆どまっとうな時代小説的な導入から始まるのだが、そこはガリバー、またもや海に乗り出して冒険の旅へと。そこからは波乱万丈の原作を彷彿させる展開となる。
 綱吉の病気を癒す不老長寿薬・竜仙粉を求めてモルッカ諸島近辺の魔の海域にある島をめざす狩場に随行することになるのだ。しかし、徴用して乗りこんだオランダ軍艦の船長以下乗組員は実は乗っ取り犯だった…。
 さらに別の海賊に襲われ、捕虜になり、魔の海域のメールストロームに巻き込まれ、打ち上げられた島が「ロストワールド」で…、とかなりハチャメチャなご都合主義的展開。いや、面白いんだけど、やり過ぎ感は否めない。狩場というキャラ造形は唖然とするほどの学識・叡智と剣の達人ぶりで、まるで架空の人物のようだ(実際そうだけど)。最後には飛島のラピュタ人も登場して、その正体や目的も明かされるのだが、これ以上のネタバレはやめておこう。(それにしても「人がゴミのようだ」が出てきたのは笑った)
 作者はミステリ作家(それも本格!?)なので、ところどころに殺人の謎解き場面が出てくるのは、これはまぁ習い性と言うべきか。海賊の描写に関しては随分研究して書いているようだ。最近「海賊の経済学」という瞠目の本が出て、海賊にも経済的合理性やら組織運営上のよく出来た仕組みがあったことが良くわかるようになっているが、その本が出る前に書かれているので、著者の慧眼が知れる。フェミニズム的観点もいい味付けか。
 長いけれどリーダビリティは非常に高く、さくさく読める。〈註〉が充実してるので初心者にもとっつきやすい(が、不要な常識レベルのものまであったりするのは余分な面も)。この手のが好きな人にはお勧め。ただ、本来の原作が持っていた政治的な風刺精神は殆ど無いのが残念かも(「本格」派推理作家にそれを求めるのは元々無理とは言え)。
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