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「オーダーメイド殺人クラブ」(辻村 深月) [小説]

この作家のを読むのは初めて。結構売れてるようだし、店頭ではよく見かけていたものだったが。この作品は最近出て、今年上半期の直木賞候補にもなった。読んでみようかと思っていて図書館に予約しておいたら意外に早く回って来た。

オーダーメイド殺人クラブ

オーダーメイド殺人クラブ

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/05/26
  • メディア: 単行本



タイトルからしてミステリーかと思っていたのだが、「殺人」がテーマとは言えトリックとか謎解きではなく、むしろ青春心理小説と言った方がいい。

〈〈〈以下ネタバレ有り〉〉〉
























 設定がブッ飛んでいる。自殺願望ではなく、被殺人願望の少女の話。しかも、死体損壊マニアで、できるだけ斬新な猟奇的方法で殺して欲しい、という病的な願望。のどかな地方都市のごく普通の中学2年生のかなり美人の少女が、である。「中二病」とはよくいうが、ここに描かれる嗜虐志向(グロ趣味)という倒錯と、その自己への適用というさらなる倒錯の二段重ね願望は、そんな俗語のジョークめいた意味合いをはるかに超えている。とんでもねェ〜!
 かと思うと、それとは別に普通に思春期の悩みを抱える日常がある。まずこのリアリティある背景描写と、先ほど述べた願望とが、どうにもちぐはぐで収まりが悪い。異質というか、次元がまるで違うものをくっつけている。なので展開が強引というか不自然さがつきまとう。ただ、ストーリーテリングはこなれており、読みやすいのでさしたる抵抗もなく読み終えたのではあったが。
 しかし、自分がこの作品にとって〈良い読み手〉であったかと問われると、大いに疑問だ。そもそも、思春期の、しかも「今」の女の子の心理なんて、還暦迎えた爺たる私には想像を絶する世界だ。子供も居ないし。
 自分の中学生の頃のクラスメート女子たちを思い浮かべても、これほどスクールカースト、クラス内政治が苛烈であったという印象はまるで無い。昔の農村の長閑でのんびりした学校だったからだと思うが、発達面では遅れをとっていた男子として単に気がついていなかっただけで、同じようなものだったんだろうか?だったら怖い。
 それにしても、いじめやハブという問題はやはり昔よりひどくなってきているのだろうとは思う。時代的な変化は厳然として感じる。その理由については様々考えられて、とてもここで考察するには大きすぎる問題だ。
 宮台真司が「今の子供はいじめを避けるために心的エネルギーの大半を費消している」とか言っていた記憶があるが、そういう状況がこの作品の中にベースとしてある。アホらしい限りで、何という無駄・愚行・不条理かと思うしかないが、それは部外者の大人からの見方であって、当事者としては深刻なのだろう。にしても、小娘どものくっだらない陰湿なさや当てやら腹の探り合い、会話や表情でのディスコミュニケーションぶりの、これでもかの描写には相当げんなりした。てめぇらエエ加減にせいよ!
(とは言え、作者あとがきはなく、参考文献一覧や謝辞・献辞などが一切無く、どれくらい取材や調査研究をした上で執筆したのか分からないので、これを「社会派的作品」と呼べるのかどうか微妙なのだが、まぁあまりやってないんじゃないだろうか?若い女流作家の机上の想像力で書かれたものという印象は強い。もしそうだとしたら、ちょっと無責任なんじゃないのか?)

 さて、それが被猟奇殺人願望につながるという展開は、前述したように無理筋感が強い。「昆虫系」(←このネーミングは秀逸だと思う)と名付けた、キモいアホ男子類型の集団の中に(しかも隣の席に!)、少年A志向の逸材(?なにしろ〈猫殺し〉だし)が居て、協力者が見つかる、というのは「ご都合主義」以外の何物でもない。しかも、結末でのハッピーエンド的回収!これもご都合主義で、まぁ最終的に人生肯定賛歌的成長小説っぽくなっていて、読後感はさわやか、とすら言えるようになっている。もしかしてこれって「王道的」展開なのか?しかし、ここまで変則的な王道というのは語義矛盾じゃないかと思うが…。いややっぱりこんな変格青春小説に「王道」はないな。
 うーん、やはり安直さは否めない。この作家の今現在の限界じゃないかと思う。

 …と書き終わってから、ネット上でレビューをいくつか覗くと、絶賛の嵐ではないか!「肥大した自意識ゆえの〈特別な存在〉になりたいがための痛々しさが鮮烈」とか「到達点」とかなんとか。みなすごく共感しているんだよね。やはり私は〈良い読み手〉じゃなかったようだ。orz
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