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「折れた竜骨」(米澤 穂信) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

 以前Twitterのタイムライン上で複数の人が「傑作」と言っているのを何度か目にして、読んでみようと思っていたのが、やっと図書館で借りられた。

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/11/27
  • メディア: 単行本


 〈歴史ファンタジー&ミステリー〉というのはもしかして読むのは初めてか? 舞台が架空の異世界でなく、実際の中世(12世紀末ヨーロッパ)というのは好感が持てる。巻末に沢山の参考文献・歴史資料本が列記されていることからも、作者がかなり力の入った取材調査の上で書いた努力が伺える。
 しばしばファンタジーで取られる手法としての〈中世風異世界〉(剣と魔法)という設定は、歴史考証の手間を全くかけなくて済み、頭の中で「てきとー」に自在に構築できるので「書くのが楽」なのはミエミエで、作者の手抜きとしか思えない場合が多く、リスペクトできない、と常々思っていた。もちろん、緻密に構築された作品世界という例外はたくさんあるけれども。
 その点ではこの作品は敬意を払うに値する。

 ただ、登場人物が日本語で思考しているというのがちょっと違和感があった。もちろん日本人作家が日本語で書いた作品なので、全て日本語なのは当然なのだが、登場人物の言動の端々に何となく日本的感性のようなものを感じてしまい(つまり読みやすい)、同様の舞台・設定の外国作品とはやはり雰囲気、感触が違うのではないか?と思うのだ。よく調べて書いてあるにしても、中世当時の現地人の思考としては、今の日本人が読んで分かりやすすぎなのではないか?(「天空の城ラピュタ」をヨーロッパ人が見ると英独伊の要素が混ぜこぜで気持ちが悪いと思うらしい、という話と少し近い、けど意味合いは違うが)
 最後の「儀式」つまり、関係者・容疑者全員を集めての謎解きの場面に至っては、「そういうのは近代以降のミステリの形式なんじゃないの?」などと。

 そもそも、ファンタジー要素つまり魔法やモンスターが重要な位置を占めストーリー展開を左右する世界で、まともな「本格推理小説」が作れるのか?という問題がある。(あるのか?)
 作者はあとがきで、この「特殊設定もの」に挑戦した経緯を書いていて、元々「本格」ではなく「変格」を狙っているのだから、目くじら立てる理由はないのだろう。物理法則を越えた世界なので、そういう制約(むしろ無制約?)の中での〈知的遊戯〉を楽しめばいいのだ、と捉えれば。
 それかあらぬか、この作品では「読者への挑戦」は宣言されていない。こんな異様な設定の中で、通常の論理だけに従って解けるわけがない。実際読者が予想もしなかった魔術道具が説明の中で使われたりしている。「ファンタジーにも三分の理」と割りきって、あれよあれよの展開を楽しめばいい。そういう意味では面白かった。ただ、どんでん返しの結末は、何かで読んだ「ミステリー十戒」だかなんだかの、禁じ手を犯してないか?と思った。
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