SSブログ

「ロコス亭(奇人たちの情景)」(フェリぺ・アルファウ) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

本屋をぶらついていて文庫本コーナーでたまたま目について、面白そうだな、読もうと思ったのがこれ。今年6月刊。

ロコス亭 (奇人たちの情景) (創元ライブラリ)

ロコス亭 (奇人たちの情景) (創元ライブラリ)

  • 作者: フェリぺ・アルファウ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/06/29
  • メディア: 文庫


 ところが、図書館で予約して入手したのは1995年刊のハードカバー(タイトルは「ロコス亭の奇妙な人々」)だった。つまり、今回のは新装再刊だったのだ。こんな本が出ていたとは知らなかったし、『保存庫』のラベルが貼ってあるところを見ても、「お蔵入り」だったことがわかる。もっと知られていい本じゃないかと思った。

 「奇妙な味の小説」、連作短編集である。「奇想」の類か、幻想的、シュールな味わい。ただ、超常的ではない。
 極めてユニークな人々が登場し、作者が虚構を演出する仕掛け・小説作法まであからさまにするという虚実が入り組んだ凝った構造をしているのだが、これ自体は今更あまり新味はない。何しろ1925年の作品なのだ。作者はスペイン人で、小説の舞台もスペインだが、渡米後英語で執筆したらしい。

 極端に影の薄い男が生まれ変わるために自殺を演じる話。物乞いが実は富豪だった話。指紋発見者の息子がその意義を称揚するあまり殺人事件の犯人に甘んじる話。財布を掏られて取り返したら別の財布でそれが叔父の警視総監のもので、掏摸は実は…の話。無双の怪人の奴隷から始まり成功者となりの波乱万丈、滅茶苦茶な人生。死体愛好者の女性の一生。猛犬に脅かされ、抑圧的な学校に通わされ尼僧に仄かな恋心を抱き、不安とストレスにまみれた少年期から神経を病み死に至る青年の話。

 ざっと挙げただけで、いかに奇矯な人物造形かわかるだろう。フリークス展覧会の様相を帯びている。必然的に話は「説話的」となる。それがナボコフ、カルヴィーノ、そしてラテンアメリカ文学へとつながる、いわば嚆矢とも言える作家と位置づけられる。なのにほとんど忘れ去られていて、1988年にアメリカで発掘されて再刊されたものの翻訳なのだった。
 まぁ珍しいものを読ませてもらった。どこか〈死の匂い〉を漂わせている作品が多く、また夢と現実が交錯してもやもやとはっきりしない雰囲気が基調なのだが、どの作品も面白かった。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。