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「風の中のマリア」(百田 尚樹) [小説]

この作家の作品では以前「モンスター」(何故か最近増刷になって店頭に並んでいる)を読んだだけで、代表作の「永遠の0」や「錨を上げよ」は読んでいない。

風の中のマリア (講談社文庫)

風の中のマリア (講談社文庫)

  • 作者: 百田 尚樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/07/15
  • メディア: 文庫

 2年前に出ていたのだが最近文庫になって目について、なんとスズメバチを主人公にした小説というので、面白そうと思って手に取った。日本に棲むスズメバチの中でも最大最強(最凶)のオオスズメバチの生態を1頭(という単位を使うらしい)の働き蜂(ワーカー)のマリアという個体の生活、一生を追う形で生き生きと描き出している。

 こういう本は単純に面白い。TVの野生動物番組は時々見るが、小説ともなると〈物語〉としての作り込みが甚だしく、擬人化の程度が度外れているので、感情移入しやすくなっている。このテイストは「シートン動物記」で慣れ親しんだものだし、子供の頃見ていた「ディズニーランド」(冒険の国篇)ではよく動物映画をやっていたが、それも同じ趣向だったので、一種懐かしさがある。TVの構成作家が本業の著者ならではの、番組台本になりそうな(実際の制作は非常に困難だろうが)雰囲気である。
 それにしても虫を主人公に据えるとは大胆な試みではある。〈擬人化〉が激しいと書いたが、まさにやり過ぎの感が否めない。マリアの感覚、思考、感情が「人間的」すぎるのだ。他の虫たち(異種も含めて)との間で高度に抽象的な言葉を使っての会話が延々となされるに至っては、「おいおい」と言いたくもなる。これはもう「ご都合主義」などという生やさしい次元をはるかに超えている。いっそ清々しい、とすら言える。(「そんなのアリ?」と言われたら、「いやハチなんですけど」と答えようか、などと)
 ハチが「フェロモン」だの「ゲノム」だのの言葉を操るんだから、まぁ殆どマンガである。でも学習漫画としての出来はなかなかよろしい。スズメバチの驚くべき生態が非常に正確に具体的に描かれていて勉強になった(参考文献も多く載っている)。小学校高学年以上向け、と言える。
 スズメバチと言えばその獰猛さは知られているが、この作品の中でもメインはその戦士としてのあり方で、実にたくさんの戦闘場面が描かれている。狩られる方は命乞いをしたり(笑)それを無視して非情に殺す場面など…。まぁ見どころなわけだが、マリアが自己の存在、生について「何のために?」と思い悩むシーンなどは、やっぱりやり過ぎですな。面白いんだけど。

 …などと突っ込みどころは多いにしても、生物が弱肉強食の自然界の中で懸命に生き死ぬ、その過程は〈無常さへの哀感〉を漂わせていて、読後感は良かった。たまにはこういう読書もいい。

※作者の百田尚樹氏は、たまたまTwitterでフォローしているのだが、小説家としての自信がなく「作家になりきれない」悩み惑いの本音をフランクに開陳していて面白いですよ。
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ask

百田氏の最近のツイート
https://twitter.com/#!/hyakutanaoki/status/112949099610910721
これは定量的に観測されたんだろうか?
by ask (2011-09-12 12:59) 

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