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「ザ・ロード」(コーマック・マッカーシー) [小説]

ザ・ロード

ザ・ロード

  • 作者: コーマック・マッカーシー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/06/17
  • メディア: ハードカバー
 2008年6月(翻訳)刊。ピューリッツァー賞受賞。随分評判になっていた記憶がある。最近読む本は図書館で借りられる、つまり少し年数が経った作品が多いので、どうしても時機を逸した感が否めないのだが、大体それは元々〈ツン読家〉の宿命みたいなものでもある。
 で、この「ザ・ロード」だが、マイカテゴリーでは「SF・ホラー・ミステリ」の括りでなく、あえて「小説」の方に入れた。確かに「破滅後の世界」という舞台設定はSFなのだが、ここで描かれるのは「文明の問題」と言うより「人間」寄りであり、SF的設定は方便として使われているだけのように感じたからだ。
 この設定はSFとしては定番で、数多くの作品が書かれているが(最も印象に残っているのは「ポストマン」)、味わいはかなり違う。人間の行動と心理描写に重心がかかっていて、いわば「純文学」的なのである。
 ストーリーはあまり無い。淡々と同じ雰囲気の描写が続き、事件が起こらないわけではないが、目立った変化に乏しいのだ。しかもその雰囲気たるや、暗鬱の極みである。核戦争後(?)のアメリカの荒廃した、灰色に覆われ太陽は見えず、寒さに震える死んだような絶望的世界。そこをよろよろと南めざして歩んで行く生残りの父と子の情景描写が単調に延々と続く。退屈といえば退屈かもしれない。しかし、ディテールのリアリティは圧巻だし、こういう世界構築というものの本来持つ興味深さは、この作品でも発揮される。つまりは〈設定の勝利〉なわけだが、それは別にして、親子の間に交わされる会話は深く読み応えがある。10歳くらいの息子の知識不足と成長途上ゆえの疑問と不安、それをフォローする保護者としての父。大半の会話の最後は息子の「わかった」で締めくくられる。そうした〈教え〉(教育的行為)が、これほどの極限状況でなされる作品というのはあまり前例がないのではないか? 展望、先への希望がまるで見えない状況なのである。それでも二人は諦めず懸命に生きようと(あるいは死期を遅らせようと)食料や生活用品を探索しつつ、戦い、逃げ、あがき続ける。その姿は「崇高」な印象さえ呼び起こしている。

 気になったのは、〈残留放射能〉のことが全く語られていないこと。明らかに核戦争後を描いているはずなのだが。…って、これが「SF」でなく「小説」の方に分類する理由の一つでもあったわけだが。

 既に映画化されていて、日本では今年夏以降公開の見込みのようだ。予告編を見たが、ややアクション色が強く(映画なのでしょうがないのだろうが)どれだけ原作の味を出しているかいまいち不安が残るけれど、廃墟などの映像的にはなかなかいい出来のようだ。見てみたい。
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ask

Twitter上の宣伝アカウントの告知あり。
http://twitter.com/TheRoad_moviejp/status/16691879625
by ask (2010-06-21 22:24) 

ask

映画見て、感想書きました。

http://ask0030.blog.so-net.ne.jp/2010-07-08
by ask (2010-07-08 02:33) 

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