「廃墟建築士」(三崎 亜記) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]
三崎亜記の作品は以前「となり町戦争」を読んだことがある。不思議な世界を構築してリアルに淡々と描写するユニークな小説だった。静謐な印象がある。で、最新作のこの短編集を図書館で借りて読んだ。以下少々ネタバレあり。
「七階闘争」
市内各所のビルやマンションの7階でばかり事故や事件が頻発したために、「7階そのものが悪いから消しちまえ」という発想で世論や行政が動く、それに対抗して保存運動が起こる、という奇天烈な小説。建物の各階は自分が何階かを刷り込まれて思い込んでいるから存在する、という(アニミズム的、てのもヘンだが)アイディアで無理矢理構築された作品。シュールな割には展開はシリアスかつリリカル。この作家の作風は、最初に読んだ「となり町戦争」から変わっていない。
「廃墟建築士」
>「廃墟とは、人の不完全さを許容し、欠落を充たしてくれる、精神的な面で都市機能を補完する建築物です。都市の成熟とともに、人の心が無意識かつ必然的に求めることになった、『魂の安らぎ』の空間なのです。
これまた奇想天外な発想である。最近、〈廃墟の写真集〉などというものが出たりして、ちょっと考えられなかったような対象に「萌え」る人々が現れて、「工場萌え」などもその一種だが、(まぁ昔から残酷写真萌えというグロ趣味なフリークが居るのは知ってるが、それとはちょっと違う)、そこからの発想だろう。最初から廃墟となるべく、それだけを目的に建設される建物、という一種の芸術作品。
で、これが結構「泣かせる」。廃墟の滅びの美しさ。そのために生涯を捧げて求道的に生き、死のうとする主人公の姿勢が感動的。「我々はどこから来てどこへ行くのか」なんてね。
「図書館」
図書館の魂が無人の夜間に覚醒し棚の本が浮遊し飛び回る、というぶっとんだファンタジーのアイディア(映画「ミッドナイトミュージアム」に似てるか?)をなんというか、思弁的に構成した作品。「野性」を秘める図書館を馴致させる過程など緊迫感もあって面白いけど、謎が残るし、あとを引く余韻は効果的なようでいて、ちょっと未完感がある。
(「演繹」と言う言葉を正反対の「帰納」という意味で使っているのがちょっとひっかかった。)
「蔵守」
有史以前から存在し続ける蔵は意識を持っていた。何を保存し守っているのかわからぬままに。それを一生守り続ける職としての蔵守。やがて最期、略奪者が到来し…蔵自身と蔵守とが交互に一人称で語る物語。この奇想もなかなか魅力的だ。オチは半分くらいの所で読めてしまったが、アイディアの面白さではなく、この作家の持ち味の叙情性が発揮されているので、しみじみと沁みて来る。
「七階闘争」
市内各所のビルやマンションの7階でばかり事故や事件が頻発したために、「7階そのものが悪いから消しちまえ」という発想で世論や行政が動く、それに対抗して保存運動が起こる、という奇天烈な小説。建物の各階は自分が何階かを刷り込まれて思い込んでいるから存在する、という(アニミズム的、てのもヘンだが)アイディアで無理矢理構築された作品。シュールな割には展開はシリアスかつリリカル。この作家の作風は、最初に読んだ「となり町戦争」から変わっていない。
「廃墟建築士」
>「廃墟とは、人の不完全さを許容し、欠落を充たしてくれる、精神的な面で都市機能を補完する建築物です。都市の成熟とともに、人の心が無意識かつ必然的に求めることになった、『魂の安らぎ』の空間なのです。
これまた奇想天外な発想である。最近、〈廃墟の写真集〉などというものが出たりして、ちょっと考えられなかったような対象に「萌え」る人々が現れて、「工場萌え」などもその一種だが、(まぁ昔から残酷写真萌えというグロ趣味なフリークが居るのは知ってるが、それとはちょっと違う)、そこからの発想だろう。最初から廃墟となるべく、それだけを目的に建設される建物、という一種の芸術作品。
で、これが結構「泣かせる」。廃墟の滅びの美しさ。そのために生涯を捧げて求道的に生き、死のうとする主人公の姿勢が感動的。「我々はどこから来てどこへ行くのか」なんてね。
「図書館」
図書館の魂が無人の夜間に覚醒し棚の本が浮遊し飛び回る、というぶっとんだファンタジーのアイディア(映画「ミッドナイトミュージアム」に似てるか?)をなんというか、思弁的に構成した作品。「野性」を秘める図書館を馴致させる過程など緊迫感もあって面白いけど、謎が残るし、あとを引く余韻は効果的なようでいて、ちょっと未完感がある。
(「演繹」と言う言葉を正反対の「帰納」という意味で使っているのがちょっとひっかかった。)
「蔵守」
有史以前から存在し続ける蔵は意識を持っていた。何を保存し守っているのかわからぬままに。それを一生守り続ける職としての蔵守。やがて最期、略奪者が到来し…蔵自身と蔵守とが交互に一人称で語る物語。この奇想もなかなか魅力的だ。オチは半分くらいの所で読めてしまったが、アイディアの面白さではなく、この作家の持ち味の叙情性が発揮されているので、しみじみと沁みて来る。
タグ:ファンタジー
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