SSブログ

「火を熾す」(ジャック・ロンドン) [小説]

 昔、外国テレビドラマで「名犬ロンドン物語」という、とても賢いシェパードが主人公の〈流浪の番組〉があって、よく見ていたものだが、ジャック・ロンドンというと、なぜかこのドラマを連想してしまう。「野生の呼び声」の作者だから、犬という共通点もあるので無理からぬ所ではないだろうか?というのはさておき、この短編集を読んだ。
火を熾す (柴田元幸翻訳叢書―ジャック・ロンドン)

火を熾す (柴田元幸翻訳叢書―ジャック・ロンドン)

  • 作者: ジャック・ロンドン
  • 出版社/メーカー: スイッチ・パブリッシング
  • 発売日: 2008/10/02
  • メディア: 単行本

以下ネタバレあり。
 各短編の内容を紹介すると、
火を熾す|To Build a Fire
 零下50℃以下の酷寒のユーコン川沿いを単独で犬を連れて行く男が、水に濡れた足を乾かそうと火を熾すが、落ちて来た雪で消え、凍傷に襲われ…。寒気の描写が凄い。(夏向きかも)

メキシコ人|The Mexican
貧弱な体にルサンチマンを込めて革命資金のためにボクシングに挑む孤高の少年。

水の子|The Water Baby
マウイ島に伝わる伝説の形で、説話風に語られる、海洋民族の自然との融和的世界。

生の掟|The Law of Life
イヌイット族の老人が人生の終わりを迎え仲間から遺棄されて一人荒野に残されて去来する回想。個は命を継ぐ掟としての死を受け入れ、種は存続する。

影と閃光|The Shadow and the Flash
そっくりな二人の男が少年期から不倶戴天のライバルで憎み合う。二人ともマッドな科学者になり、方や完全な黒塗料、方や透明人間と正反対の手法で見えない人間になり死闘を繰り広げる、というSF.

戦争|War
ある兵士が撃たれて死ぬまでの克明な描写。

一枚のステーキ|A Piece of Steak
ステーキすら買えぬ貧苦に喘ぐ老いたボクサーが、若さに溢れた新人と対戦し、老練さを持って善戦するが、テクニックで勝るも圧倒的な体力差の前に惜敗する。かつて自分が倒した老ボクサーの姿に重ね合わさる。

世界が若かったとき|When the World Was Young
一種の二重人格小説。原始人のとてつもないパワーを持ち、昼は紳士的な実業家、夜は山野を駆け回って狩りをする男。熊との壮絶な闘い。

生への執着|Love of Life
砂金採りの男が荒野で脚をくじき、仲間に見捨てられ、食料も弾丸も無くさまよい、極限的な飢え、衰弱の過程が描かれる。

 どの作品も極めてシンプルでありながら、迫真力に富んでいる。自然描写も感覚描写も臨場感が圧倒的だ。扱うテーマも著者の多彩な関心領域を反映してバリエーションが豊か。百年前に書かれた古さをみじんも感じさせない、小説の力というものを実感させられた。悲劇に終わるものもあれば、ハッピーエンドもあるが、共通して自然の厳しさに雄々しく対峙する人間の生の強烈な存在感にあふれていると同時に、それを越えた境地にまで達するかのような厳粛さがある。おすすめ。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。