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「泣き虫弱虫諸葛孔明」(酒見 賢一) [小説]

 映画「レッドクリフ」のヒットなど、今も「三国志」ブームと言っていいのだろうか? あの映画を見たからという訳でもないのだが、前から気になっていたこの小説を図書館で借りて読んだ。泣き虫弱虫諸葛孔明
泣き虫弱虫 諸葛孔明 第弐部


 作者の酒見賢一の作品はデビュー作の「後宮小説」(第1回日本ファンタジーノベル大賞受賞作)で狂喜して以来、多く読んでいる。が、最大の「陋巷にあり」は1巻だけで読むのを中断してしまっており、しばらくご無沙汰だった。
 一方、「三国志」は吉川英治ほか多くの作家が書いているが、横山光輝の漫画も含めて読んだことはない。NHKの人形劇は拾い見していた。個々の有名なエピソードは見聞きしていて、ある程度はその世界の様子はわかっているつもりになっていた、くらいの知識だ。
 これまでの作品群では概ね、劉備玄徳が主人公というか筆頭の英雄として描かれているらしいし、諸葛亮孔明は不世出の天才軍師として殆ど超人のように扱われているのが通例だろう。対する曹操は冷酷無比(想像)。ところが、この作品の中ではまるで異なった視点で新たな孔明像(と劉備像)を提示している。(但し、「泣き虫弱虫」というタイトルはちょっと内容にはそぐわない。未完なので今後の展開でどうなるかわからないが)
 この作品は厳密な意味で「小説」ではない。むしろ歴史評論と言った方が良い。場面場面での作者の突っ込みコメントが凄まじいのだ。こんなに作者がしゃしゃり出て来て難癖つけまくる歴史小説も珍しいし、それがまた途轍もなく面白い。端的な例を引用すると
>ただ言ってしまえば『説三部』『三国志演義』そのものが異端の固まりのようなものであり、まっとうな士大夫、読書人階級は真面目に相手にしなかったもので、子供だってある年齢になれば自然に卒業するといった幼年向けマンガ誌のようなものなのである。中国ではいい年をして『三國志』ではなく『三国志』を読んで夢中になっていたり(または書いていたり)するのは、人として痴れ者!というか好んで女子小人に成り下がろうとする数奇者、頭が幼児並み!と断定されても致し方ないくらい恥ずかしいことなのである。よって『三国志』がブームになるなどというのは、国をあげての国民総幼稚化、他国に侮りを受ける恥辱の事態と…
だったら、こんな本書くなよ、という気がしないでもないが、とにかく随所に散りばめられた現代的感覚による(エヴァンゲリオンまで登場する)批評の圧倒的な突っ込みの面白さは尋常ではない。
 通説をひっくり返す瞠目の新解釈が目白押しで、書を置く能わず。堪能した。
 Amazonでほぼ全員が星5つ付けている本というのも珍しいのではないか?これは是非文庫化すべきである。と同時に続きが読みたい。「別冊文藝春秋」への連載は継続しているのだろうか?
タグ:歴史小説
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コメント 4

ask

文春文庫版、出ました!!
by ask (2009-10-14 00:08) 

ask

ub7637さんにこの本をおススメしたら、早速読んで感想を書いてくれました。よくまとまってます。↓
http://d.hatena.ne.jp/ub7637/20100109/p4#seemore
by ask (2010-01-08 21:14) 

ask

第弐部・文春文庫版、出ました!!
by ask (2011-02-13 18:56) 

ask

「第参部」を読みましたので、レビュー書きました。

http://ask0030.blog.so-net.ne.jp/2012-09-17
by ask (2012-10-09 00:08) 

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