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「聖家族」(古川 日出男) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

聖家族

聖家族

  • 作者: 古川 日出男
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2008/09
  • メディア: 単行本
2000枚の大長編。なにしろ上下2段組みで730頁もある!その分厚さにちょっと逡巡はした。しかし、期待は出来たので、2730円を出して買った。その期待の根拠は、この作者に今まで裏切られなかったからだ。
 古川日出男の作品で今までに読んだのは、「13」「サウンドトラック」「アラビアの夜の種族」「ベルカ、吠えないのか」とそう多くはないのだが、どれもこれも素晴らしく面白かったし、その異様な文体の持つ力に酔わされたものだ。
 で、今回のこの作品、その文体がますます増強と言うか徹底と言うか、飛翔し疾走し激走している。殆ど詩である。倒置や繰り返しの多用の持つエネルギッシュな効果、ここに極まれり。
 今回も〈設定の勝利〉という面はある。相変わらず、異様な世界なのだ。東北のある土地に代々続く名家、狗塚家の人々の年代記、と一言では言い切れぬ奥深い世界。母系ならぬ祖母系という異様な血筋。700年前にさかのぼる異能の祖先の系譜を室町時代、戦国時代、江戸時代、幕末、明治、昭和、平成と行きつ戻りつ錯綜し交響しあうストーリーの重層的にして相互浸透する、その因果の妙。武道や音楽や妊娠など、「不立文字」の世界を言語化しようという大胆な試み。
 まぁ、若干辻褄が合わないと言うか、ストーリー展開に省かれたところなんかがあったりして、少し不満も残ったんだけど、とにかく凄い作品であることは間違いない。

 どうでもいい些事をひとつ。
 こんな分厚い本を持ち歩くわけにはいかない。そこで私は、一部の本好きの人には非難されるであろう禁じ手の、〈解体分冊〉をすることにした(以前宮部みゆきの「模倣犯」でもやったが)。約100ページくらいずつ、カッターナイフでバラバラにし、ポータブルな分冊にして、それを通勤車内に持ち込んで読むのだ。読むのが遅い私は大体1日に持ち歩いて読める量はせいぜい50ページくらいのものなので、その10倍以上の重さをむなしく持ち運ぶのはあまりにも無駄であるし、手が疲れる。
 本というのは中味を読むことが肝心であり、物質的な印刷物という存在(ハードウェア)にはなんの価値も無い。メディアが紙だろうが、石や羊皮紙だろうが、磁気だろうが、液晶の明暗であろうが、要は内容でありテキスト(ソフトウェア)である。読むこと自体にしか意味は無い。
 とは言いながら、私は本を「踏む」という行為には極めて強いタブー意識を持っている。これは一見矛盾しているように見えるかも知れないが、その際踏むのはあくまでも物理的な紙に過ぎないとしても、テキストが形而上的に存在している【場】を足の下に踏むという行為の持つ象徴的な意味は極めて冒涜的である、という意識があるからなのだった。
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コメント 3

ub7637

舞城のディスコ探偵といい、今年は傑作級作品の大当たり年ですね。
どっちも分厚すぎなので読むのが相当しんどいですが、読みだすと一気にいってしまいます。
by ub7637 (2008-10-29 03:11) 

ask

>どっちも分厚すぎなので読むのが相当しんどい
両方とも読んだんですか! それはなかなか凄い。

>傑作級作品の大当たり年
と言えば、他にも「テンペスト」(池上 永一)とか 「新世界より」(
貴志 祐介)なんてのもありますね。どっちも未読ですが。
by ask (2008-10-29 23:07) 

ub7637

> 他にも「テンペスト」(池上 永一)とか 「新世界より」(貴志 祐介)

そこいらとか、町田康の「宿屋めぐり」とか、私も未読です。アンテナはってるし、興味もあるんですけど、超長編の連続はさすがにしんどいので。最近の小説家ってガルシア=マルケスにも引けをとらないよねっというかなんというか、すごい(すごそうな)作品のが多くて幸せです。神話級の物語というかなんというか。
by ub7637 (2008-10-31 02:59) 

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