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「とある飛空士への追憶」(犬村 小六) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

とある飛空士への追憶  (ガガガ文庫 い 2-4)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い 2-4)

  • 作者: 犬村 小六
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2008/02/20
  • メディア: 文庫
 この本、今やたらと評判になっているようだ。数多くのブログで絶賛の嵐、書店でも山積みになって売られている。〈ラノベ〉つまりライトノベルの「ガガガ文庫」(しかし、なんちゅーネーミングだ!)の中の一冊。普段〈ラノベ〉には近づかない私でも気がつくくらいの、狂騒と言っていいくらいの売れ行きらしいのだ。
 ふーむ、そんなに言われるのなら読んでみようか、と初めて〈ラノベ〉なるジャンル(?)に手を出すこととは相成った。

 最近の〈ラノベ〉の隆盛は尋常でない、と思う。書店の売り場の中で占めるスペースが大きくなって来ているのを実感する昨今だ(あとBLものも同様だが)。
 で、こうなると本好きとしては気にならないわけじゃない。装丁からして見るからにお子ちゃま向けの印象を与える文庫本の大群なのだが、SFファンである私にとっては、全く無縁な存在でもなく、あれだけあるからには中には面白いものもあるんじゃないか、と。いちいち細かくチェックする気力など無いから、敬遠するままになっていた。そこへこの騒ぎである。ほぉほぉ、やっと読んでもよさそうなのが出て来たかな?と思って購入したのだった。
 で、早速読んでみた。
 で、評価だが、うーむ、微妙である。まぁまぁ読ませることは読ませる。文章力はほどほどにはある。結末は「感動的」ですらあると言っていい。しかし、突っ込みどころはあり過ぎるくらいある。簡単に言えば、やはりあまりにも「ご都合主義」である。設定にも無理があり過ぎる。読み進めていくと、大小の矛盾点というかおかしな点が気になってひっかかって、素直に読みにくい。それでも、あえて目をつむってストーリー展開を受け入れれば、それなりに感情移入することはできるだろう。だから、この作品が沢山の読者の圧倒的な支持を得たことには頷ける。とは言え、いい年こいたおっさんである私が、彼らと一緒に絶賛するわけには参らぬ。そんなことしたら、今までの読書経験は何だったんだ?てなことになっちまう。
 この程度が〈ラノベ〉の最高レベルだとすれば、もうこのジャンルは見切った、と言っていいだろう。
 これに熱狂する子供や青年たちに言おう。「もっと、字だけの本を読みなさい」
 本の世界の豊かさは、まだまだこんなもんじゃないんだよ、と。
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アイザック

これは黙ってるわけにはいきませんね。俺はラノベを三冊くらいしか読んだことがありませんし、そのなかに誰にでもお勧めできるようなラノベもありませんでしたし、正直に言えばラノベよりも宮部みゆきや東野圭吾の本のほうが質もいいし中身も詰まってるからそっちを読みなよ、と言ってしまう側なんですが、それでも俺はラノベを擁護しないわけにはいかないんです。

だって・・・俺は・・・俺は・・・ラノベ作家なんだー!!

なんてね。口から出まかせです。
でも、ラノベ作家志望ではあります。とある賞にも作品を投稿しました。結果はまだ出ていませんが、仮に俺のその作品が評価されて出版された暁には、是非ともaskさんに読んでいただきたいんです。きっと、宗旨変えさせてみせます。
by アイザック (2008-05-30 15:51) 

ask

おぉっ!これはこれは、殆ど年に一度登場のアイザックさんではないですか。
>ラノベ作家志望
意外ではないです。
>きっと、宗旨変えさせてみせます。
これは頼もしいお言葉です。
一人の作家の誕生に曲がりなりにも関わることが出来たら、こんな果報がございましょうか。
by ask (2008-05-31 00:22) 

J

ライトノベル以外の書評サイトでも結構好評ですよ。私自身も、この作品に対して好意的です。傑作とか、滅茶苦茶に面白いとは思わないけど、王道的な話を最後までうまくまとめてると思いました。

ほんとにすばらしい本を読みたいのであれば、名作文学以外を読む必要は全くないわけで、(超極論)ただのエンタメなキャラクター小説にいちいち目くじらたてるのもどうかと思いますが、おっしゃってることに、頷ける部分もあります。ライトノベルで一巻の読切ですと、物語的にどうしても寓話的かつ王道的な話になってしまいます。また、読書経験がある人にとっては、たしかに物足りないと感じる部分があることと、突っ込むべきところが多々あることはご指摘の通りかと。ただ、私としては、そういった欠点に目を瞑り、ありふれた「ボーイ・ミーツ・ガール」といったテーマを「感動的」に書ききったことを素直に評価したいですね。


> この程度が〈ラノベ〉の最高レベルだとすれば、もうこのジャンルは見切った、と言っていいだろう。

そんな、「時をかける少女」を日本SFの最高レベルだとすれば、もうこのジャンルは見切った、レベルなことを言わんでもいいでしょう。同じくガガガから出ている「されど罪人は竜と踊る」をお勧めしてみます。SF→ラノベだと、入りやすいかも。楽しめる保証は全くしませんが。
by J (2008-05-31 18:39) 

ask

Jさん、いらっしゃいませ。詳しいコメント有り難うございます。

>ライトノベル以外の書評サイトでも結構好評
ふむ、そうなのですか。検索したところでは、そういうサイトには気がつきませんでした。ちなみに、私のこの記事はGoogleでのタイトル検索で、80万件(!)中73位とかなりいい線行ってました。

>素直に評価したい
確かに私の書き方は「素直」ではないです。あえてあら探しをしています。

>もうこのジャンルは見切った、レベルなことを言わんでもいいでしょ
これもその通り、ちょっと乱暴な発言でした。

 で、その裏の心理を明かしましょう。まぁ有り体に言えば、
 〈これ以上読みたい本が増えては困る〉
のです。世の中には面白そうな、読みたい本が溢れかえっており、一生に読める本はそのごくごく一部なわけです。既に千冊以上のツン読本をかかえて途方に暮れてる私にとって、さらに新たなジャンルが増えるのは、即欲求不満が亢進することに他ならない訳です。
それを回避するために、一種の〈酸っぱい葡萄〉手法を採った、というのがまぁ妥当な自己分析ではないか?と。
 でも、せっかく
>「されど罪人は竜と踊る」をお勧め
と言ってくださったので、これは読んでみましょう。
by ask (2008-06-01 00:46) 

ask

げっ、間違えた。
確認したら80万件じゃなくて、86,200件でした。
by ask (2008-06-01 00:50) 

J

> それを回避するために、一種の〈酸っぱい葡萄〉手法を採った、

なるほど。ある種どうでもいい話なのですが、私はその逆で、自分の本当に好きなものを深掘りながらも、知らないところにもどんどん挑戦しよう && 批判するよりは、なるべく加点的に物事を判断、評価していこうって人なので、そういったスタンスの違いでしょうね。

>「されど罪人は竜と踊る」

作者の浅井ラボさんは、下記のリンクのような考えと読書歴を持った人です。

http://www.gagaga-lululu.jp/gagaga/lineup/DD/column01.html
http://www.gagaga-lululu.jp/gagaga/lineup/DD/column02.html
by J (2008-06-01 01:03) 

ask

>加点的に物事を判断、評価していこう
というのはいいことです。
でも前述の通り、私の本棚は満杯でこれ以上加えることがとても困難なんですよ。これから沢山読めるぞ、という人が羨ましいです。

>浅井ラボさん
って凄い人ですね。とても〈ラノベ〉作者とは思えない。桜庭一樹さんみたいに、いずれは「ラノベ出身の一般作家」になるのでは?
by ask (2008-06-01 22:52) 

ask

「されど罪人は竜と踊る(1)」
をゲットしました。
と言っても読むのは相当先になりそう。
by ask (2008-06-04 22:41) 

ruka

はじめまして。 いきなり失礼致します。
私はまだまだ読書経験も浅いのですが、ライトノベルは京極夏彦や、西尾維新、森博嗣さんをお勧めします。
京極夏彦さんの作品は映画にもなったそうですよ。
by ruka (2008-06-19 22:45) 

ask

rukaさん、いらっしゃいませ。
>京極夏彦や、西尾維新、森博嗣
って、この人たち「ラノベ」に入るんですか? 「ライト」よりかなり「重い」印象があるんですが。特に京極氏の諸作の分厚さは…!
京極氏のでは「嗤う伊江門」をだいぶ前に買ってあってツン読っぱなし。森氏のでは「全てがfになる」だけ読んだことがあります。
by ask (2008-06-20 22:57) 

ub7637

どうも。おはようございます。

> >京極夏彦や、西尾維新、森博嗣
> って、この人たち「ラノベ」に入るんですか?
>

西尾維新は、ああいう表紙なので、ラノベじゃないと説明する方が難しいような気が...

京極夏彦や森博嗣の著作をラノベっぽいと言ってる人はときどきいますねぇ。京極夏彦の著作はほとんど読んでますけど、京極の「京極堂シリーズ」「ルー=ガルー」あたりの設定、キャラの立て方は、たしかにラノベっぽいですね。自分も、そう思います。(まぁ、デビュー作「姑獲鳥の夏」は、最初は漫画にするつもりだったと作者は言ってますし、当然の話かも...)

ただ、あくまで「っぽい」の部類であって、普通はラノベに入らないと思いますよ。


>特に京極氏の諸作の分厚さは…!

終わりのクロニクルの最終巻が1091Pありますね。ラノベでは最も分厚いかと。読んだことないですが。(←本当にどうでもいい蘊蓄自慢&&茶々入れ)

http://www.bk1.jp/product/02619167


>京極氏のでは「嗤う伊江門」

「嗤う伊右衛門」は、四谷怪談を悲恋風味のミステリ仕立てにした傑作ですね。京極のTop5に入るくらい好きで、もう3回くらい読み直してます。最後の数ページが、本当にすばらしいと思います。
by ub7637 (2008-07-07 09:39) 

ask

ub7637さん、コメントありがとうございます。

>西尾維新は、ああいう表紙なので、ラノベ
ですね。いかにも、です。

>普通はラノベに入らない
これも、同感。

>Top5に入るくらい好きで、もう3回くらい読み直し
てことは、Top5の作品全部で15回くらいは読み直してるんですか?
それは凄い!
by ask (2008-07-08 00:21) 

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