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「ドグラ・マグラ」(夢野 久作) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

 今更かも知れないが、「ドグラ・マグラ」(夢野久作)を読んだ。
 小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」、中井英夫の「虚無への供物」(この2作品は既読)と並ぶ日本探偵小説の〈三大奇書〉だと言う。この本の存在は学生の頃から勿論知っており、興味もあってずーっと前に入手もしていたのだが、なんとなく取っつきにくいまま長年放置してあったのだ。
 それを急に読む気になったのにさしたる理由は無い。ふと思い出して、「あれまだ読んでなかったな」と思っただけである。
 で、読もうとツン読本の山を探したが、案の定見つからない。そこで思いついたのが、
そうだ青空文庫行こう!
である。ご存知、著作権切れの日本文学作品が大量に保管、無料公開されているサイトである。

 行ってみると、ちゃんとあった。意外に最近登録されたファイルだった。URLはここ。HTML版1.3MBをダウンロードした。底本はちくま文庫版。
 これを電子本閲覧ソフトのT-Time5.5 で読み込むと、ルビも含めてうまく表示できたので、勇んで読み始めた。実を言うと私は今まで、小説の類をコンピュータのスクリーン上で読んだことは全く無かったのである(ごく短い短編のオンライン小説を除く)。「新潮文庫の100冊」なんていうCD-ROMも買ったりしたが、画面で読むのはあまり好きでなく、少しは読みかけても数ページでやめてしまい、最後まで通読したことがなかったのだ。
 T-Timeなら、フォントやサイズ、背景色などを自在に設定できて自分好みの状態で読むことが出来る。これは大きい。「新潮文庫…」の〈エキスパンデッドブック〉ではその辺が固定されていた(と思う)のが読みにくかった原因だ。おかげで、この大作を最後まで読み通すことが出来た。…と、ここまでは余談。

 かなり読みにくくはあった(新かな表記に直してあるのに)が、それにしても、やはり大変な小説だ。昭和10年に発表された作品なので、精神医学や脳科学の知見は古いのだが、作者の独創的アイディアが当時のレベルを越えて進歩を先取りしていた部分もあろうと思われる。「脳は電話交換局に過ぎず、全細胞が考える」なんていう「脳髄論」などは、ちょっと極端にしても身体性の重要さに注目している点でなかなかのものだろう。精神医療のあり方批判なんてのは現在でもあまり改善していないところもありそうだし。
 それらを含め、衒学的な大量の弁舌と文献の圧倒的な量!完成に10年を費やしたというだけあって、大変なエネルギーの注ぎ込まれた作品だ。
 そして、狂気の世界を主人公の主観的視点から一人称で描く部分の怖さは圧巻である。Wikipediaによると、
> 本書を読破した者は、必ず一度は精神に異常を来たす
そうなのだが、これは言い過ぎだろう(って私、病識ないもんね。けけけ)けれど、確かに相当混乱させられることは確かだ。記憶喪失者の不安・恐怖をこれほどの迫真力を持って描くのは大変な力業だし、それは当然読者に伝染するから。
 だから、今後この作品を心の中で反芻し続けるようなことはあまりしない方がいいだろう。
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J

前半は若干退屈ですが、三大奇書の中では、一番面白いですし、一番好きです。物語としては、たしかに意味不明なんですが、読み直すたびに、結末の解釈が変わってきて、面白いですね。非常によくできた作品だと思います。


>そうだ青空文庫行こう!

この話を青空文庫で読んだのですか。すごい。私の場合、短編ならまだしも、青空文庫で長編を読みたいとは思いません。読んでみたい作品は多々あるのですが、さすがにスクリーン上で読むのはしんどいです。
by J (2008-05-31 18:47) 

ask

>読み直すたびに
この話を何度も読んでいるのですか。それこそすごい。

>スクリーン上で読むのはしんどい
確かに、デスクトップパソコンでは寝転んで読めないので、ちと辛かったです。
 読み始めた時は、果たして最後まで読破できるかなぁ?と若干不安でしたが、慣れればそう苦痛でもなかったですよ。これに自信(?)をつけたので、そのうちまた大作に挑もうと思ってます。何がいいかなぁ?
 そもそも青空文庫は素晴らしい企画ではありますが、実のところどれくらいの人がそういう読み方をしてるのか、甚だ怪しいとは思います。ケータイとかiPodとかPSPに入れて読んでる人って、結構居るのかもしれませんが。
by ask (2008-06-01 00:58) 

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