「逝年」（石田 衣良）

逝年―call boy2

• 作者: 石田 衣良
• 出版社/メーカー: 集英社
• 発売日: 2008/03
• メディア: 単行本

以前５年くらい前だったかに読んだ「娼年」の続編である。
　「娼年」を読んだのはこのブログを始めるずっと前だったので、当然記事は書いていないのだが、あの作品は非常に読み応えがあった。コールボーイつまり売春夫という極めて特殊な世界を描くという、キワモノっぽいテーマなのだが、いやらしさとか不潔さとかは全くなく、むしろさわやかで真摯な世界が展開したのに舌を巻いたものである。セックスという人間の根源的な営みに真っ正面から取り組んだ誠実な作品だった。
　今度の新作について著者はどこかで「自分の一番大好きな作品に、久しぶりに会い、決着を付けたかった」というような趣旨のコメントをしていたように記憶している。

　それにしても「逝年」とはちょっとまた随分なタイトルではないか。私は最初にこれを見たとき、主人公リョウが、前作から一足飛びに数十年が経過し、晩年を迎えてやがて死に至る物語かと思ってしまった。「娼年」に対応するのだったら、もっと他の表現があり得たんじゃないだろうか？「凄年」とか。そう、「凄絶」な物語なのである。
　実際は、前作のすぐ直後の１年間ほどが描かれるだけだ。ナンバーワンコールボーイとしての彼の〈商売〉は環境が変わっても健在で、種々多様な顧客相手に、それぞれに心のこもった奉仕をして癒すという仕事を遂行し続けている。そこにあるのはプロとしての矜持とさえ言える。「売春＝性の商品化」と言ったら、人倫に反した汚れた行為である、というのは世間一般の常識だろうが、ここで描かれるセックスには上述のように全くそういう色合いは無い。むしろ人間が他者の存在を受け入れそして生の真理を追究するスタンスであって、「求道的」でさえあるのだ。それは悲劇的な展開の中でより輝きを増す。
　私が性描写の場面を読んで興奮でなく涙ぐんだのは、この作品がおそらく初めてだろう。
　おすすめだが、読むならまず「娼年」の方から読んで欲しい。

タグ：老境小説 セックス