「シュレディンガーのチョコパフェ」(山本 弘) [SF]
シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫 JA ヤ 6-1)
- 作者: 山本 弘
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/01
- メディア: 文庫
SFのガジェットを徹頭徹尾理詰めで展開するとどうなるかという理系のセンスオブワンダー的遊び心全開である。ここから先はネタバレ注意。
●「シュレディンガーのチョコパフェ」
いまいちぴんと来なかった。「過去の改変によるパラレルワールドの無数発生」ったって、想像するとそれが実現してしまう、いやそういう世界へジャンプする、というのはいくらなんでも安直すぎるような。最後は全くのファンタジーになっちゃってる。
●「奥歯のスイッチを入れろ」
これは面白かった。ウェルズの「新加速剤」、「サイボーグ009」、「エイトマン」などへのオマージュでもある。ヒトの脳を電子脳にコピーし、超高速駆動出来る身体メカが実現したらどうなるか、というシミュレーション、そしてもう一つの同様の敵との格闘の描写。これはエキサイティングだ。「新加速剤」では空気との摩擦熱の問題しか提起されていなかったが、この作品では〈慣性〉と〈重力〉の問題が大きく考慮されていて、リアルである。その代わり元の「摩擦熱」の問題は捨象されちゃってるが。「エイトマン」的あるいは平井和正的とでも言うべき、サイボーグのアイデンティティ問題に関する考察も、「顔」や「表情」の持つ〈ペルソナ〉的意味合いについての留意も行き届いている。
●「バイオシップハンター」
一個の生命体である宇宙船バイオシップ、それを駆る爬虫類型宇宙人との交流でのカルチャーショックを描きつつ、野生のバイオシップとの遭遇とその種の保護の問題を考える。地球人類の存在意義にまで考察は及び、なかなか感動的だ。
●「メデューサの呪文」
川又千秋の「幻詩狩り」を思い起こさせる作品だ。物質文明より進んだ言語文明に達した宇宙人の凄まじい言語パワー!その片鱗に触れた〈詩人〉の体験記の体裁で謎が語られるのだが、その結末の仕掛けが面白い。つい「もしかして?」と思ってしまったり。
●「まだ見ぬ冬の悲しみも」
これもタイムトラベルもの。過去方向にもパラレルワールドの分岐が起き得る。量子的揺らぎによって過去方向へのエントロピーの減少が阻害される? うーむ、よくわからん。
●「7%のテンムー」
「テンムー」とは「天然無脳」のことで、「人工無脳」でなく、ヒトの話。人口の7%に出現するという、I因子欠落者がfMRI検査の精密化により見い出される。彼らは一見健常者と変わらないが、別名「ゾンビ」と呼ばれ、心がなく、その思考も行動も自動人形のごときものとされた。恋人がそれである、と知った女性の不安。しかし、I因子が「意識」そのものだという真相が明かされ、さらに意識そのものが(現実とのタイムラグという事実の発見から)幻影であるというどんでん返しに至る。巨大なる無意識こそが心であり愛なのだ、I因子の有無は大した違いじゃない、と。結構説得力を感じてしまった。
この元ネタとなった本を私は持っている。「ユーザーイリュージョン 意識という幻想」(トール・ノーレットダンラーシュ)であるが、残念ながらツン読なのだった。
それにしても「人工無脳」とは懐かしい言葉を聞いた。22年も前、私が初期のパソコン通信にのめり込んだ頃、チャットにもハマったのだが、そこで一時期はやったのがチャットの場で「人工無脳」を走らせることで、最初は面白がったものの、無機的で無意味でトンチンカンな反応にはすぐにウンザリしてしまったものだった。(遠い目)
●「闇からの衝動」
「シャンブロウ」で有名なC・L・ムーアへのオマージュ。実は彼女は少女時代に異次元の怪物に囚われ、、という真相のタネ明かしモノというか、牽強付会というか、いやはや南友。滅法面白いんだけども。
>「シュレディンガーのチョコパフェ」
僕は、亜夢界に行って、きちんと完結している『ローゼンメイデン』を読みたいです。あと、アシモフ自伝の3巻も読みたいし、まともなエステバリスのプラモデルも作りたいし、映画版『万物理論』も観たい。
by duznamak (2008-01-17 20:24)
おおっ! 既にとうの昔にお読みになっておられたんですね。
侮りがたし!
それにしても、ちと妄想志向が強すぎるんでは?
by ask (2008-01-18 00:53)