「犬身」(松浦 理英子) [小説]
この作家の作品を読むのは初めて。「親指P…」の存在は知っていたが、読む機会がなかった。今回手にしたのは、いろんな「今年のベスト」に挙げられていたり、NHKBS2の「週刊ブックレビュー」でも取り上げられていたからだ。分厚い小説だが、とても面白く、また異常にリーダビリティが高いので、長さを感じさせなかった。
それにしても、ホントにヒトが犬に変身してしまうとは、これまたトンデモなくぶっとんだ設定である。マイカテゴリーを選ぶのに「SF/ホラー/ミステリ」の方にしようか、と悩んだくらいだ。手法はファンタジーだし、娯楽性も十分なので、そうしてもよかったのだが、いややはりここには純文学的主題、つまりセクシャリティや他者とのコミュニケーション、ゆがんだ家族関係など、人間存在のあり方への関心がありありなので、「小説」の括りにしたのだった。
「性同一性障害」ならぬ「種同一性障害(自分はヒトでなく実はイヌであると思う)」なんて初めて聞いたが、登場人物の中で重要な役どころを演じる〈メフィストフェレス風の絵に描いたような悪魔〉は、なかなかいい味を出してはいるけれど、そんなヘンな魂を欲しがるなんて、悪魔としては相当な〈悪食〉なんじゃなかろうか?
この作品、「八犬伝」やら「ファウスト」やら「狼男」へのオマージュに富んでいて、あ、これはアレだ、と思うことしきり。なんにしても堪能しました。
タグ:ファンタジー
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