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「世界から猫が消えたなら」(川村 元気) [小説]

本屋大賞にノミネートされたりもしてかなり評判になった(30万部以上の売れ行き)こともあって、またタイトルが興味深かったので読んでみた。

世界から猫が消えたなら

世界から猫が消えたなら

  • 作者: 川村 元気
  • 出版社/メーカー: マガジンハウス
  • 発売日: 2012/10/25
  • メディア: 単行本



 「世界から猫が消える」とはこれまた尋常ならざる題名だ。リアルでなく、突拍子もないファンタジーかと思えた。実際、冒頭から妙にチャラい〈悪魔〉が出てきて脳腫瘍で余命いくばくもない主人公の寿命を1日伸ばす代わりにこの世から何かを一つずつ消し去る、という契約を結ぶという、よくあるパターンのようでイマイチ意味がわかりにくい設定。

 この世に余分なものが溢れすぎているからとか、神様の意向でとか、理由も示されるが、神の命令に従うのは悪魔じゃなくて天使じゃないのか?とか、大体ケータイとか時計とかが消えても世の中が大混乱にならない展開はおかしい、とか突っ込もうと思えばいろいろあるのだが、いや、この作品はSFではなく、極端なシチュエーションを設定した上で、家族や友人や恋人、更にはペットなどとの関係を際立たせて、その有り様とあるべき姿を、無くなって初めて大切なものの存在に気づくという手法で実験的に考察し、人生哲学を考えようという小説であって(だからマイカテゴリーも普通の「小説」にした)、別に社会経済的な観点ではなく、あくまでも等身大の個人の〈生〉を対象にしているので、あえて言えば〈セカイ系〉的な作品なのだ、と位置づけることもできる。
 と言っても、この小説は他愛無いラノベ並のものだというわけではなく、方法的に〈セカイ系〉を採用こそしているが、なかなかに深い、身にしみてくるような言葉に満ちている。箴言的表現が散りばめられていて、思わず傍線を引きたくなる箇所が頻出した。小品だが良い小説だ。

 この作品を読む前に、メールマガジンの「津田マガVol.78(2013.5.24)」に著者インタビューが載っていたのを読んでいた。新進気鋭の映画プロデューサー(「電車男」「デトロイトメタル・シティー」「告白」「悪人」「モテキ」「宇宙兄弟」「おおかみこどもの雨と雪」)の初の処女作ということだ。
 「映画にできないことを小説でやってみたかった」と。確かにこれは映画化しにくいだろう。
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