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「ぷりるん。」(十文字 青) [小説]

ぷりるん。―特殊相対性幸福論序説 (一迅社文庫)

ぷりるん。―特殊相対性幸福論序説 (一迅社文庫)

  • 作者: 十文字 青
  • 出版社/メーカー: 一迅社
  • 発売日: 2009/07/18
  • メディア: 文庫

 ub7637さんが絶賛してたので、久々に「ラノベ」を買って読んだ。「とある飛空士への追憶」以来である。「凄くエロそう」な話と聞いていたので、「老いてなお盛ん」であること人後に落ちない(つもりだけだったりして)私としては、正直期待したのだが、エロについてはたいしたことなくて、その点においては「期待はずれ」と言っていい。ラノベというジャンル・業界においてはR18のような、対象年齢の低さを考慮した自主規制のようなものがあるのか? そして、そういうものを読み慣れている人には、かなり「過激な性描写」という風に感じるのだろうか? 具体的な性描写はむしろ抑制気味と私は感じた。人によって閾値は違うんだろうが。
 で、そんなところ含めて、この作品がラノベなのか、それっぽくなくジャンルを逸脱しているのか、という問題(?)がある。まぁ私はラノベそのものに元々強い興味はないので、その違いについては、深く追究しようという気はしない。けれど、読む上での手がかりとしてならいろいろな角度で検討は出来る。
 ub7637さんはツイッターで、「この作品はラノベっぽくないけど、ラノベ特有の特殊なアイテム(可愛い妹とか、奇矯な行動をする女の子とか?)が出て来るので、不慣れな人は拒否反応を起こすかも」みたいなことを言っていた。私は別にすんなり読めたけど。
 SHI-NOさんのブログの単純明快な定義によれば、〈ラノベは読んでて脳裏にアニメが浮かび、そうでない普通小説は実写映画が浮かぶ〉というものである。その定義をこの作品(を読む私)に適用すると、この作品はラノベではない。枚数の多いイラストにも関わらず、常に私の脳裏には実写画像がplayされた。(ちなみに「とある飛空士」では全編セルアニメであった。)
 ただ、一般にこの生成される脳内映像の種別を左右する要素は複数ある。つまり、設定のリアル度、文体、人物描写の具体性、ストーリー展開、そして大きなのがイラストの出来不出来、である。ここで、イラストというラノベ必須の構成要素の持つ意味が注目される。
 大体ラノベの表紙やイラストに使われている図柄を私は殆ど区別できない。イラストレーターの違いすら越えて、みーーーんな殆ど同じ顔に見える。これは昔キャンディーズのラン、スー、ミキの3人がなかなか区別出来なくて〈自分も年を取ったな〉と感じたことを想起させて内心忸怩たるものがあるのだが、無理して若ぶってもしょうがないので正直に告白するしかない。
 このことによって、イラストがそもそも私の脳内劇場でアニメ上映する力は弱まったことになる。特にこの作品においてはイラスト(かなり頑張ってセクシーなシーンもそれなりに上手く描いてはいるが)よりはストーリーやキャラクタの方がはるかに存在感が強いのだ。文章の力が強い、と言っても良いか。つまり物語を構築するのにイラストの助けは全く要らず、むしろ邪魔なくらいなのだ。改行の少ない(頁が黒っぽい)文章なのに、リーダビリティは非常に高く(って、まぁ対象年齢を考えて語彙を易しくしてあるというのはあろうが)、作者の筆力は高い。
 さて、内容であるが、この作品には「特殊相対性幸福論序説」という副題がついている。なるほど、なかなか含蓄のある副題だ。ここに描かれる男子高校生の体験は、かなり〈特殊〉であり〈相対性〉つまり対人コミュニケーション/交流の、その〈幸福〉なあり方について描いて、あるいは考えさせ、そして、その物語は終わっても「始まりの終わり」に過ぎないという意味で〈序説〉なのであった。
 〈特殊〉というのはラノベにはありきたりの、やたらモテる、妹と二人暮らし、ヘンな相手に遭遇する、など都合の良い設定で、こういうのに感情移入する少年読者というのは、まぁ願望充足のために読んでいるのかも知れないが、「そんな奴ぁ居ねーよ!」と言いたくなりつつ読んで行くと、なんだ意外と真っ当な奴じゃないか、と肯定する気分になっていた。ニンフォマニアの女子高生、アスペルガー症を思わせるストーカー的女子高生、なども愛おしくなって来る展開であり、作者の人間讃歌、とまで言えそうな作品で後味はとても良かった。
 と言うわけで、ラノベなんて、と忌避してる人にもお勧めしてみよう。
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コメント 5

ub7637

どうも。気にいっていただけたようで(←文章からの判断)、なによりです。この感想を読んで、自分の感想は、イラストのイメージに引きづられすぎたかと、昨日から反省しておりました。

この作品に関しては、あとがきにもあるとおり勢いにまかせて書いてる部分がありましたけど、作者の筆力や構成力は高いと思いますよ。人間賛歌的な青春ストーリーにからめながらの人物の内面描写に独特なところがあって、その部分が好きで、長らくファンをやらせてもらってます。本読みが最初に読むラノベとしては、「とある飛空士」より、自分としても、こういうのを勧めたいところ。

今月に一般文芸で1冊、来月にラノベで3冊出ますけど、そちらも楽しみにしてます。
by ub7637 (2009-08-11 12:40) 

ub7637

> 本読みが最初に読むラノベとしては、
↑中身的にラノベといえるかどうかは置いといて、ラノベのレーベルから出てるからラノベということで……
by ub7637 (2009-08-11 13:16) 

ask

先ほど、Twitterで作者本人と会話出来まして、「特殊/相対性/幸福論/序説」の分解解釈について訊いたところ、
>いいセンだと思います。
とのご回答をいただきました。
有り難うございました。

また、自分の作品を読み返すのが好きで、
>読みはじめると、さいごまで読んじゃったりしますよ。きのうも、ぷりるん。さいごまで読んじゃった。
とも。
by ask (2009-08-11 16:49) 

SHI-NO

しかしまあ、よく私の定義なんか使う気になりましたね。まさかアレを採用する方がいらっしゃるとは夢にも思いませんでした。
by SHI-NO (2009-08-12 01:26) 

ask

>よく私の定義なんか使う気に
ラノベ方面に疎い私の数少ない接点のひとつがあなたのブログで、たまたま目について、「ふむ、これは使えそうだ」と思ったので、拝借したんですよ。
「ラノベとは」でググって、夥しく存在するであろう論議を参照検討する手間をかける暇がなかったもので。
でも、それなりに使えたでしょ? まぁ、かなり粗雑な立論かもしれませんが。
by ask (2009-08-12 08:15) 

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