「魔法」(クリストファー・プリースト) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]
- 作者: クリストファー プリースト
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/01
- メディア: 文庫
そのプリーストの新作「双生児」を店頭で見かけ、面白そうだなと思いつつその値段の高さ(3千円近い)に買うのを逡巡していたが、そう言えばプリーストの小説で、買い込んだままツン読中のがあるじゃないか、と思い出した。それも「魔法」と「奇術師」の2冊もある!まずこれを読まなくては、というのを買わない言い訳にして、今回まず「魔法」の方を読んだ。「奇術師」の方は相当評判になったが、こちらはそれほど話題になっていなかった作品だ。
ここからはネタや結末に触れるので注意。
が、さすがプリースト、読者を翻弄してくれる。はじめはやや単調な只の恋愛小説(三角関係)の展開だが、いきなり「不可視人」なるガジェットが登場し、ここから俄然面白くなる。心理的に認識されないために他人から〈見えない〉存在という、設定としてはかなりユニークなもので、読んだことは無いがチェスタトンにそういう作品があるらしい。男女双方の視点で進行するストーリーは彼らの迷いもあって錯綜し読者を惑わす。この辺のストーリーテリングは見事だ。
だが、一体真相は?と読み進めると、ついにメタフィクションになってしまうという最後の展開にはめんくらい、ちょっと鼻白んだのが正直なところだ。
この小説の一部が作中人物によって前もって書かれていた、という下りを読んだとき思い出したのは、トリックの機能としてはまるで違うのだが、ブラウンの「ユーディの原理」である。こっちの仕掛けの方が単純かつ面白かったように思うが、「魔法」の方が物語性の大きさ、稠密性ゆえに〈作者〉の物語への侵入という〈メタ〉な叙述がもたらす読後感の深さは大きいように思われる。
タグ:ホラー
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