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「パフューム-ある人殺しの物語」 [映画]

以前このブログに書いた、小説「香水-ある人殺しの物語」の映画を見てきた。あの「観客の89%が匂いを感じた」という宣伝文句の作品である。
 うーん、確かに〈臭い〉〈匂い〉〈香り〉を強く意識させて、なかなかの出来である。残念ながら私は「感じた」とまで言えるほどには至らなかったのだが。

 それにしても、原作との違いにちょっと戸惑った。原作には連続大量殺人などは無い。グルヌイユが殺したのは最初と最後の赤毛の女性だけである。13種類の素材が必要、なんて話も無い。処刑場のあの最大の見せ場も無い。
 原作では、彼は何年も山に籠もって、ひたすら自分の〈脳の中での匂いの王国構築作業〉に没頭していたので、傍目には〈野人〉のようになってしまっていたのだが、それも無く数日間のことになってしまっている。
 最大の違いは、彼が涙を流した場面だろう。ここに表出される【人間味】も原作にはやはり無い。初恋(最初の殺人相手)への哀惜、体臭がない故にその彼女から認識されないという強迫観念に襲われ、自分の存在が虚無であることを恐怖し、深い孤独感に陥る…などというような一種「実存」的、あえて言い変えれば「人間讃歌」的なところは原作には無いのだ。原作はあくまでも彼の異形ぶりを淡々と徹底的に描くのみだ。
 この映画の「解釈」は私にはいささか不満である。もっと忠実に「非人間的」に描いてもよかったんじゃないかな?と思ったりする。
 ところで、最後の結末についてだが、私にはどうもここら辺の原作の記憶が無い。パリに戻って、広場であの香水を振りまいて大勢の人々にあのような狂態を惹起させるまでは覚えているのだが、その後自分に振りかけて、殺到する人達に食らわれて〈地上から消え去る〉って場面、あったっけ?「私のオールタイムベスト小説」などと高らかに宣言していながら、最後がどうなったのか覚えていない、っつーのは相当にヤバい、アルツってる状況だ。こうなると、最初に列記した「原作との違い」も忘れてるだけかも知れない、と心配になって来た。もう一度買ってある文庫本を読み直してみたいのだが、ツン読本の山の中に埋もれて発掘出来ていない。
 困ったもんだ。


タグ:匂いフェチ
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コメント 3

michaela

つい最近、友人と話題になって原作読みました。映画もどこまで再現したのか、ぜひ見たいと思うのですが・・・。
原作の最後も確かに「殺到する人達に食らわれて〈地上から消え去る〉」です。でもその部分の描写が結構あっさり短いので、広場の狂態の方が印象に残ってしまうのかもしれません。
私のブログでも別の視点から触れました。
by michaela (2007-03-15 13:21) 

ask

michaelaさん、お久しぶりです。コメントどうも。
どうやら私の記憶は大きな欠落があったみたいです。もう20年も前に読んだのも一因でしょうが…。ちょっと愕然としてます。
そういうわけで、この記事はとてもじゃないがnice!を貰うようなものではないので、辞退させていただいて、nice!は消去させていただきます。あーはずかし。
by ask (2007-03-15 23:28) 

michaela

20年以上も前に読まれたんですか!私もサスペンスなど読んでもすっかり忘れていて、2度楽しめたりします(笑)。
近々映画も観るつもりですが、原作と映画の違いって、難しいですね。はじめから別物としてみた方がガッカリしなくていい場合も多いですし・・・。
by michaela (2007-03-16 08:45) 

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