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「神秘」(白石 一文) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

 白石一文という作家は以前(9年前)「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」を読んで呆れてしまい、その後金輪際読む気は起きなかったのだが、事情が変わった、とでも言おうか?

神秘

神秘

  • 作者: 白石 一文
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2014/04/26
  • メディア: 単行本



 この小説のテーマが末期がん患者の延命策を求めての探索という、とても「身近に感じられるもの」であったのだ。しかし、読む前から、(タイトルからして)超常現象が起こりそうなファンタジー風味を醸し出していたので、ちょっと迷った。そんなバカバカしい物を読んでいる暇はないではないか?とも思った。がん関連ならば治療法や生活規範などについてのまっとうな論理を展開している良書がいっぱいあるだろうに、そんな理論書とも実用書ともつかぬ、いやエンタメであることは最初からわかっているこの小説を読む意味があるのか?と。しかも作者は一度見放した作家である。
 しかし好奇心に負けてしまった、といったところか。勿論自腹で買って読む気はしないので、図書館で借りて読んだのだが。

 驚いたことに、主人公は「大出版社の重役」で、週刊誌の編集長経験もある、という設定で「この胸に深々と…」のそれと同一人物としか思えなかった。なんで同じ人間をちょっと違った展開とはいえ2回も登場させるのかな?安直なキャラ設定ではないか?
 社内出世街道まっしぐらで充実していた男が、ある日いきなり膵臓癌末期の宣告を受ける。余命1年。男は会社を事実上辞め、昔聞きかじった神秘的な病気治癒能力(手かざし系?)を持つ女性を探し求めて神戸に移住する。そこでの新たな生活と探索の日々。やがて遭遇に成功。同棲を始めて……
とこれくらいまででネタバレ回避のため中止。

 それにしても、今作も「ご都合主義」の色合いは濃い。というか、これほど入り組んで複雑に絡み合う人間関係の巨大な連鎖がストーリーに密接に結びついた展開を招く、というのは、もうもはや「ご都合主義」などと言ってるどころの次元ではなく、まさに「神作品」のレベルに達しているのだ。(←褒めてない)
 ご都合主義作品とは、一般に、神の立場でストーリーを構築できる作者が、その自由さに胡座をかいて、適当な展開を都合良く進めるために随所に「偶然」による出来事を挿入すること(私がそれを強く感じた作品は森村誠一の「人間の証明」)だが、この小説に仕掛けられた【偶然】のレベルは勿論ストーリー展開に極めて重要な要素をなしているのだが、なんというか、「偶然によって筋が進行する」と言うより、「ストーリーが偶然を要求する」あるいは「偶然ありきでストーリーが構築されている」という甚だ強烈なレベルにまで達してしまっているのである。「この人物とこれとは十何年前に偶然タクシーで…、実はこれは別のあの人とこういう関係で…」などという詳細な設計図が作成されているに違いなく、話の展開上やむを得ず必要になった偶然などではなく、当初からストーリーの核に据えられたご都合なのだった。ふぇえ。

 そこまで読んでくると、はてさて私は一体何の話を読んでいたんだっけ?みたいな妙な気分になってくる。

 がんという難病に向き合って人生を振り返り心の問題として捉え直して…云々の要素は少しはあったのだが、あまりにド派手な設定と展開の前に雲散霧消して、ただの面白いファンタジーになってしまったではないか?!

 今回も以前のほど文献引用は多くはないが、それでもやはり少しは出てくる引用で著者が依拠した本はこれである↓
奇跡的治癒とはなにか―外科医が学んだ生還者たちの難病克服の秘訣-バーニー-シーゲル
そのAmazonでの内容紹介は
>“例外的がん患者たち〈ECaP〉”とは、がん、エイズ等の難病に冒されながらも、生きる意志と望みを失わず前向きに自己治療にとり組む治療グループのことである。これを米国で主宰するのが著者、バーニー・シーゲル博士。医者と患者という垣根を取り払い、斬新な療法と仁愛の心で患者の持つ自己治癒力を喚起する。現代医学に見放され、死の淵に立たされた患者たちが、家族や治療スタッフとの共感に満ちたふれ合いのうちに〈生きる〉ことの真の意味に目覚め、奇跡的生還者へと変貌する姿を通して本来あるべき医療像を呈示し、生命の尊厳とは何かを読者に問いかける。

 ただ、この本では超能力者が格別な治癒能力を発揮して見事に恢復するという事例は描かれていないように思われる(読んでないので推測)ので、この小説の中で描かれる手かざしによる治癒能力とは殆ど関係がないように思う。つまりこの原典はそれなりにまっとうな精神論を重んじる本なような気がするが、小説の方はそれを逸脱し、ド派手な奇跡を招来しているので「鬼面、人を驚かす」的な、要するにファンタジーとしてしか成立していないのだ。勿論それは作者の意図するところなので、こんな指摘をしても、「それが何か?」で終わりだろうけれど。

 ファンタジーといえば、映画「アンブレイカブル」そのままの設定(大勢死者が出るような事故に遭っても傷ひとつ負わない)の人物が登場したりするのも笑いを誘った。

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