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「沈まぬアメリカ 拡散するソフト・パワーとその真価」(渡辺 靖) [ノンフィクション]

前回、「読書の危機」で書いたような状況とは言え、少しは読んでいる。なので久々に書評を。

沈まぬアメリカ 拡散するソフト・パワーとその真価

沈まぬアメリカ 拡散するソフト・パワーとその真価

  • 作者: 渡辺靖
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/10/23
  • メディア: 単行本


 この本のタイトルはおそらく、「沈みゆく大国アメリカ」(堤 未果)を意識している、と思われる。

 冒頭にも「何度も繰り返されるアメリカ衰亡論」という記述が見える。私自身のブログの中にも随分前だが、「アメリカ橋落ちる、落ちる、落ちる〜♪」なんて記事を書いたこともあった。

 それに対して、どっこいそうは簡単にアメリカは滅びない、ハード(軍事・経済など)パワーの低落傾向はあれど、ソフトパワーには端倪すべからざるものがあるとして、その全世界に広がる影響の様々な諸相を、現場を訪ねてフィールドワークを重ね、状況報告している。労作である。

 内容項目は多彩で、(細密圧縮充填しちゃうと↓)
●中国や中東へ積極的に進出するアメリカの有名大学●巨大スーパーのウォルマート●アフリカに勢力を伸ばすキリスト教保守主義を代表する「メガチャーチ(巨大教会)」●各国版が制作放映されるセサミストリート●アメリカ型民主主義の裏方を左右する政治コンサルタント●奉仕を徹底するロータリークラブ ●世界を魅了する文化、ヒップホップ
…等々。

 最もポピュラーなハリウッドやディズニーランド、SNSやAmazonなどには敢えて触れていない。つまり、そうでなくてもこうした沢山のアメリカが生み出した「文化的遺産(レガシー)」が、政治・教育・宗教など様々な分野で世界中に拡散、浸透している、そういう強大なソフトパワーの影響力をルポした論考なのだ。

 それぞれが持つ、アメリカという歴史風土的な特殊性を超えた普遍的な価値。その柔軟な現地適応力、修正変形自在な応用可能性、それがこのソフトパワーの勢いの源泉である、と読めた。

 つまり、アメリカという巨大な人工・実験国家がその基本理念の上に生み出したものは「アメリカナイゼーション」でありつつも、人類文明の中で必然性と普遍性と有効性を兼ね備えて強い存在価値を持ち得る、そして世界中に変形しつつも拡散し存続するだろうという、信念にも似た展望を著者は抱いているのである。

 但し、やはり私にはハードの面でのアメリカの衰亡は避けがたく、虎が死して皮を残すように、人類共通の大いなる遺産レガシーとしてのソフト群が残り続けるのではないか?それがアメリカがなし得る一つの貢献であり達成なのではないか、という感が拭えないのであった。

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